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2001/02/09

<韓国文化>韓国音楽事情

韓国音楽事情―――川上英雄(音楽評論家)

 緊密で広範な交流期待
 日本音楽産業の進出も活発化へ

 ミレニアムの昨年、「シュリ」に代表される韓国映画の一大ブレイクで幕を閉じた日本の韓国エンタテインメント・ブームだが、新世紀を迎え、今年はサッカーのワールド・カップ開催の前年という背景もあって、いっそう緊密で広範囲な大衆文化の相互交流が期待される。

 今年1月末に、筆者が現地で多数の音楽関係者に取材した際もほとんどの方からJポップの年内全面解禁説を耳にした。そして音楽市場を席巻する日本アーチストの英語版ソフトやインストゥルメンタル版ソフトの急激な増加を目の当たりにし、刻々と変化しかつシンクロ化も著しい両国の音楽シーンの同質化に目を見張った。

 一昨年からJポップの人気グループ、シャムシェイド(SIAM SHADE)を筆頭にゴンチチ(GONTITI)からペニシリンなど日本人メジャー・アーチストがアルバムをリリースし好調な売れ行きを見せており、その販売シェアも拡大の一途をたどっている。

 ほかにもすでに多数のアルバムを発表し人気が定着したカシオペアやT・SQUAREなどのフュージョン系バンドやボサノバでおなじみの小野リサに至っては新作が日本に遅れること数カ月で現地へも紹介される香港・台湾なみの上陸形態が日常化しつつあり興味深い。

 仮に今年中にJポップの全面解禁が韓国政府によって宣言されれば、日本側の市場調査は最終局面を迎えると予測される。日本エンタテインメント産業の雪崩を打った韓国進出が現実化することはほぼ間違いない。

 日韓両国に合弁企業や同等の資本系列企業を有する米国のタイム・ワーナーや英国のEMI、さらに旧ポリグラム系列のユニバーサル。日系のソニーやポニー・キャニオン、そしてビクター・エンタテインメントと提携するソウル音盤から、昨年エイベックスと組んだS・M・エンタテインメントまで、韓国内での音楽産業地図は激変の兆候を見せ始めている。

 欧米や日本とも大いに異なる現地のビジネス感覚をいかに軌道修正していくのかが、今後進出する企業にとっては課題として残されているが、長年にわたる興行体質強化に向けての試金石と目されよう。

 このところ、ダンスミュージックの本場といえばKポップと、日本でもその人気はうなぎ登りだが、ここに来て韓国歌謡界の潮流はかつてのトロット(艶歌)から完全にダンス、そしてロック・バラードへ転換を果たしたと指摘することができるだろう。日本でもこの1月16日に横浜のパシフィコ国立ホールで、日韓共催ワールド・カップのカウントイベントとして韓日のラップ・ミュージシャンが一堂に会したコンサート「DAライヴ2001」が開催された。BABY BOX、PEOPLE CREWなど韓国勢の四つのバンドはアジア圏でも水準が高く、駆けつけた若年層音楽ファンの熱狂ぶりは、時代の移り変わりをまざまざと見せつける光景であった。

 ところで、昨年現地でダントツの人気ぶりを見せ、Kポップのトップスターへ登り詰めた男性シンガー、チョ・ソンモの来日公演が来る4月1日に東京・新宿の厚生年金ホールで開催される。

 メガ・ヒットと称される第3作アルバムは「アシナヨ(ご存知ですか)」をメーンに、饒舌なバラード・アルバムとして長期間ヒット・チャートを独占したが、ベトナムでの本格的なロケを行い制作されたMTV(ミュージックビデオ)も絶賛を博した。

 最近、米国の黒人グループでソウル・ミュージックの雄、オール・フォー・ワン(ALL―4―ONE)が韓国でMTVを制作して話題を呼んだが、日本をしのぐほど定評あるそうした技術力が世界的な評価を得るのもそう遠い夢ではあるまい。

 これまで、マイナーゆえに荒削りな魅力でユニークな輝きを発信してきた韓国音楽産業界であったが、Jポップの全面解禁は国内産業の保護と同時に多くの課題を提起するきっかけとなるかもしれない。

 <筆者プロフィール>
 かわかみ・ひでお 音楽評論家。1952年茨城県土浦市生まれ。日本大学芸術学部卒。著書に「激動するアジア音楽市場」。