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2002/09/20

<韓国文化>書評

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朝鮮通信史紀行  杉洋子著

 江戸時代は、朝鮮と日本の間に善隣友好関係が続いた特筆すべき時代であり、その象徴が朝鮮通信史だった。朝鮮通信史が日本で広く知られるようになったのは最近のことだが、鎖国体制をとっていた当時の江戸時代にはその華やかな行列に大勢の見物人がつめかけるほど有名だった。

 本書はそうした朝鮮通信史のソウル、釜山、対馬を経て江戸城に入るまでの足跡をたどった紀行であり、ゆかりの地を現地取材しているので非常に分かりやすく興味が惹かれるエピソードが満載だ。例えば、徳川幕府は一行を迎えるために100万両の大金を使ったというというが、瀬戸内海の上関、三原、牛窓、室津、明石に至る船旅に1000隻の護衛船が出たというから納得がいく。

 海路、陸路で往復8カ月から1年を要する長旅であり、道程にはいろいろな苦労があったが、迎える各藩はそれ以上に接待に大変な苦労をしたことが浮かび上がってくる。
朝鮮通信史は朝鮮朝の国王が直々に派遣した使節であるが、当初の目的は豊臣秀吉の出兵で起こった壬辰倭乱(文禄・慶長の役)で断絶した国交を復活させ、日本に拉致された朝鮮人を連れ帰ることを目的にしていた。

 その後、江戸城で国王の国書伝達が最大の任務になった。都合12回派遣しており、第1回目の1811年から数えて200余年に及ぶ。一行は国王が任命する正史ら3史のほか通訳、書記、軍官、儒学者、医師、画家らが随行しており、楽士、船頭、旗持ちらを含めると総勢400人から500人にのぼった。文化的にも大きな影響を与えた。

 豊臣秀吉の朝鮮出兵に翻弄される対馬の島主・宗義智の生涯を描いた長編小説「海峡の蛍火」の作者ならではの優しさが伝わってくる紀行文である。
(集英社、1800円、238㌻、四六版)


  すぎ・ようこ 1938年京都生まれ。
  詩作活動の後、同人誌「九州作家」を経て87年より時代小説
  を発表。
  「粧刀」、「海峡の蛍火」など。

セーヌは左右を分かち、漢江は南北を隔てる  洪世和著

 韓国で79年10月に摘発された南民戦(南朝鮮民族解放戦線準備委員会)事件関係者の1人として、フランスへの政治亡命を余儀なくされた著書の、タクシードライバーなどで生計を立てた20年に及ぶ仏生活で磨かれた批評眼が冴える韓仏比較文化論。

 95年の著『コレアン・ドライバーは、パリで眠らない』みすず書房は、韓国で大きな反響を呼んだ。「姿も性格もあまりによく似ているからか、『故郷はどこだ』『どこの学校を出たんですか』『どちらの家系ですか』と問い質し、区別し、分類することを日常としている……」著者によるフランス社会と対比した韓国社会のイメージだ。

 アルジェリア問題など現実のフランス社会の矛盾は矛盾として押さえながらも、著者が依拠するのは、異質なものへの寛容(トレランス)として発揮されるフランスの人権思想である。個人主義者の集まりであるフランス社会において、社会統合はいかになされるか。「社会正義は社会秩序に優先する」という流血を伴いながら積み重ねてきた共和主義の伝統故に、利己主義を軽蔑し、互いに連帯する個人主義者でいられるのだ、著者は喝破する。

 「社会秩序が社会正義に優先する」韓国の言論状況、さらには韓国社会を覆う「厚かましさ、小賢しい冷笑、絶望と諦念のうめき声の濁流」が問題意識の核となっているが、読み進むうちに、本国のイデオロギー対立や地域主義を日本でも踏襲していた在日コリアンを含め、日本の精神状況にも、思い至ることになる。
(みすず書房、四六版、293㌻、2800円)


  ホン・セファ  1947年ソウル生まれ。79年の南民戦事件で帰国不能となり、亡命生活を送る。 今年1月韓国に永住帰国。