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2003/10/10

<韓国文化>書 評

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◆兼若教授の韓国案内  兼若逸之著

 NHKハングル講座の名物講師でおなじみの兼若逸之・東京女子大学教授が、「秋田美男」のイチゾー君を引き連れて、韓国を旅する韓国入門書。
 日ごろから、隣国の言葉が読めないのはけしからんと、「ハングル1000万人運動」を提唱している兼若教授だけあって、ただの観光案内ではない。ハングル初心者のイチゾー君に韓国を旅しながら韓国語(ハングル)を教える体裁をとっており、本を読み進むに従って、ハングル文字を覚え、簡単な韓国語の会話ができるように工夫してある。
 「まぁる描いて縦棒はイ 右にアヤ 左にオヨ」「まぁる描いて横棒はウ 上にオヨ 下はウユ」。兼若教授が考案した「アヤオ体操」からスタートし、「神田へカンダ」(神田へ行く)など、教授の得意なダジャレの連発で、読者は知らず知らずのうちに韓国語が大好きになってしまう。
 釜山、南原、木浦、ソウルと旅を続けながら、通りの看板を呼んだり、食堂で会話をしたり、行く先々でイチゾー君を相手にした兼若教授のハングル講座が続くが、釜山では日本でも大ヒットした「釜山港へ帰れ」の歌碑を訪ね、歌の背景を説明したり、南原では春香伝について解説してあり、語学だけでなく韓国の文化についても学べる。
 イチゾー君との珍道中が会話体でおもしろおかしく書いてあるので、読者も一緒に兼若教授の講義を受け、韓国を旅しているような気分になり、肩のこらないハングル入門書として最適だ。(集英社、A5判、256ページ、1700円)

  かねわか としゆき  1945年生まれ。国際基督教大学卒。
  韓国・延世大学で博士号取得。東京女子大現代文化学部教
  授。


◆北朝鮮「楽園」の残骸  マイク・ブラツケ著

 本書は、1999年から都合3年半、ドイツのNGOのメンバーとして病院施設などの修繕のため北朝鮮に滞在した旧東独青年の体験記だ。16歳の時のベルリンの壁崩壊、東独消滅の体験を重ね合わせて北朝鮮の現実を見つめており、その感情を抑制した客観描写は文学的な味わいすら醸している。最近の絶叫調の北朝鮮批判本物とは明らかな違いがある。
 平壌だけを見ていては北朝鮮を正しく理解できないといわれるが、著者はその仕事柄、北朝鮮の各地を見て回ることができた。そして、その地方の絶望的な貧しさが描かれているが、対象に対しての著者の愛情が豊かなのには驚かされる。それは次のような文章にも表れている。
 「北朝鮮は風光明媚で、しかも文化的な特徴を備えた国である。そして、ここに暮らす人たちは私たちにはほとんど理解できないような悪条件を強いられているにもかかわらず、なおも先祖代々の土地を耕し、子供を育てている」
 訳者の川口マーン恵美さんも述べているが、全編を通じて著者の視点は優しい。人々に選択肢はなく苦境と飢えに苛まされながら1日1日を生きていかなければならず、それでもにっこりと微笑む子供たちの姿に心を衝かれる。本書には著者が撮った171点ものカラー写真が併載されているが、北朝鮮の生活ぶりを窺わせる貴重な写真が多い。その一つに金槌とかみそりの刃が置かれた南浦の人民病院の手術台の写真があった。北朝鮮の人民が希望を失わないためには何をすべきなのかを静かに問いかけた本である。(草思社、A5判、206㌻、1800円)

  マイク・ブラツケ 1973年、旧東独ベルリン生まれ。98年国家
  公認塗装技術者となり、2003年5月まで4度にわたりNGO技
  術スタッフとして訪朝。


◆希望 私はあきらめない!  徐辰奎著

 韓国がまだ貧しかった1971年、うら若きかつら女工が貧困から脱出すべく家政婦として米国に移民した。本書はアメリカン・ドリームを夢見て渡米した一女性が様々な困難を克服し、希望を叶えるまでの半生を綴った感動の物語である。
 徐辰奎さんは、米国で昼間は大学生、夜はウエートレスとして働く。米国での生活も安定し在米韓国人と結婚、出産する。だが夫婦仲が悪くなり、夫の暴力から抜け出すべく米陸軍に入隊。ここから徐さんの本当の闘いが始まる。
 肉体的、精神プレッシャーに何度も押し潰されそうになるが、その都度、「死んでも希望を捨てるな」と自らを叱咤激励した。そして、16年間の刻苦奮闘の末、アジア系女性としては初めて少佐の地位につく。
 徐さんは英語と日本語が母国語並にできるが、短期間で語学を習得するため1日何時間もテレビをみた。最初は一言二言しか分からなかったのが、いつの間にか番組の内容が理解できるようになった。また、老眼になり近くが見えなくなったが、本を遠くに置いて読む訓練を重ねるうちに眼鏡をかけなくてもよく見えるようになった。
 これらのエピソードは、何事もあきらめないことの大切さを教えてくれる。徐さんは上昇志向のとても強い人で、除隊後ははハーバード大学の博士号取得をめざして挑戦を始めた。専門書籍を何百冊も読む毎日だ。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の著者、エズラ・ボーゲル・ハーバード大学教授は「この本は人生の困難や試練に直面している多くの人々に希望と励ましを贈るだろう」と推薦しているが、確かにその通りだ。
 徐さんは、「希望を捨てなければ、夢は必ず叶う。これが私が人生から学んだことである」と言っている。本書を読めば、読者もきっと「私も挑戦してみるか」と勇気づけられるだろう。(宝島社、四六判、318㌻、1600円)

  ソ・ジンギュ(米国名=ジンーギュ・ロバートソン)
  1948年慶尚南道生まれ。71年に米国に移民。76年米陸軍入
  隊、少佐で除隊。


◆アジアの孤児でいいのか  姜尚中著

 在日韓国人2世の姜尚中・東京大学社会情報研究所教授の著書。姜教授はまず、最近のイラク戦争や北朝鮮、イランに対する米国の圧力を考えるとき、1979年が分岐点と説明する。
 この年、西でイラン革命が起き、東の韓国では朴正熙大統領の暗殺事件。つまり東西でニューディール型の近代化社会、2番目、3番目の日本をつくろうとする米国の企てが失敗している。
 さらに旧ソ連のアフガン侵攻、中国のベトナム侵攻、社会主義的市場経済導入もこの時代にあり、これは旧ソ連邦の崩壊、アジアの中の社会主義神話の崩壊、つまり現存社会主義が終わりに向かった年と語る。
 そして80年代になって米国のレーガン政権、英国のサッチャー政権は、戦後のニューディール型の福祉国家体制を終焉させ、新自由主義戦略、新しい国際秩序をつくる戦略に向かったこと、それが現在の湾岸諸国に親米政権を広げる戦略として表出しているとする。
 一方、日本は79年の大平政権下、高度成長が限界に達するなかで、上からの新しい改革を模索、それが小渕政権のときに復活し、いまの小泉政権につながっている。この新自由主義的な国家政策の背景には階級間格差があり、その中で一つの国民としてまとめていくために、新保守主義的な考えが導入されていることに警告を発する。日本は米国の「ジュニアパートナー」となることで国際的地位を保とうとしているが、その状態ではアジア諸国との新しい関係を築くのは無理と断言する。
 いま大切なことは、米朝不可侵条約に向け、日本が韓国とともに役割を果たすこと、朝日交渉を進めて国交正常化を実現すること、韓・朝・日が中心となり北東アジアを非核地帯とする、そして将来的に「北東アジア平和の家」を作り出すことと主張。歴史問題、拉致問題、戦後補償などは、それらの共同作業を行う中で解決の道を探ろうと力説する。21世紀の北東アジアの平和を考えるうえで、示唆に富む一冊である。(ウェイツ、A5変形判、126㌻、750円)


◆韓国の手仕事  田代俊一郎著

 どの国にも伝統に培われた民族固有の工芸品が存在する。それを支えているのは、その道を極めた職人の技であり、こつこつと努力を重ねる職人の手仕事である。
 本書は、韓国の手仕事に魅せられた著者が、全国の職人を訪ね歩き、その工房に足を踏み入れ、職人たちの技と生き様をつづったものである。収録されているのは、将棋の駒(ソウル)、ポクサリ(福ざる、全羅南道和順郡)、ポジャギ(ふろしき、ソウル)、螺鈿漆器(慶尚南道統営市)、かんじき(江原道高城郡)、竹夫人(抱き枕、全羅南道潭陽郡)、鯨の郷土玩具(蔚山市)など韓国の匠30人。「人間国宝もいれば、道端で葉っぱのバッタを売る放浪の寅さんまで多様だ。その多様性のなかからアジアの手仕事の世界を垣間見ることができるのではないかと思った」(著者あとがき)。
 工芸品というと、とかく高価な陶磁器や漆器などが思い浮かぶが、本書は道端の大道芸のような手仕事にも目を向けている。
 ソウル、釜山、大邱、光州などの路上で商売をしている金奉元さんは、棕櫚の葉を編んで本物そっくりのバッタをこしらえ、全国を放浪しながら売り歩く、実にユニークな「工芸作家」だ。
 日本でもおなじみの「トルハルバン」(石のおじいさん、済州島)をつくる石彫り師や「飴切り鋏」(全州市)を手がける鍛冶屋など、伝統工芸の匠だけでなく、日本ではみられない変わった職人が多数登場し楽しい。
 連絡先が記してあるので、工房を訪ねることもできる。(晩聲社、四六判、190ページ、1600円)


◆世界でいちばん大切な思い  笛木優子訳

 2001年に韓国へ渡り、「ユミン」の芸名でドラマ、CMにと韓国芸能界で大ブレイクした日本人女優・笛木優子さんが、韓国で大ベストセラーとなった『TV童話 幸せな世界』を翻訳したのが、本書『世界でいちばん大切な思い』である。
 原著は、韓国KBS放送で2001年春に始まった人気番組「TV童話 幸せな世界」の書籍版。同番組は、日々の生活に存在する童話のように美しく、そして悲しい実話を紹介する番組で、放映と同時に人気を集め、その書籍版も出版と同時に爆発的な人気となり、これまでに出版された第4巻までの合計販売部数が、170万部を超えた。
 美術学校に通う娘のために、市場の片隅の小さな店で、肉まんや餃子を作って売っている母親。美術展の招待状を娘にもらったものの、自分の汚い格好を学友に見られたら、娘が嫌な思いをするのではとためらったが、意を決して終了まぎわに訪ねる。
 そこには「世界で一番美しい姿」と題し、仕事着のまま娘の帰りを待つ母親の姿が描かれていた。
 この話のように、親子愛、夫婦愛、助け合い、思いやりといった、現代社会の忙しい日常生活の中で忘れかけている大切な思いが、イラストレーターの美しいイラストとともに紹介されている。
 日本語への翻訳にあたっては、笛木さん自身が原著の中から日本人にも共感しやすい12の物語を自ら選んで翻訳しており、セレクトした笛木さんのやさしい心も感じられる。(東洋経済新報社、B6変形判、96㌻、オールカラー、1200円)


◆もっと知りたい!韓国TVドラマ   BS fan MOOK21

 NHK衛星放送で放映された韓国テレビドラマ「冬のソナタ」は爆発的な人気となり、韓国ドラマは一躍注目されるようになった。その、いま最も熱い韓国TVドラマとスターを大特集したのが本書である。
 最新ロングインタビューは、「冬のソナタ」のチュンサン役で日本でも一躍人気者となった男優のペ・ヨンジュン。朝鮮朝時代を描いた歴史劇映画「スキャンダル」に出演が決まったが、その映画初出演に対する思い、撮影秘話などが語られている。ペ・ヨンジュン綴じ込みポスターも付録として付いている。
 そして特集として、「冬のソナタ」と「秋の童話」のロケ地を訪ねてがある。両ドラマの主なロケ地となった江原道とソウルの魅力をたっぷり紹介する企画だ。
 アクセスも詳細に説明されている。
 ほかに、この両作品のユ・ソクホ監督の最新作「夏の香り」の制作現場直撃インタビュー、やはり「冬のソナタ」に出演して注目を集めた若手女優、パク・ソルミへのインタビューなど、豪華な内容となっている。(共同通信社、A5判、116㌻、1200円)


◆金正日に暗殺された私  李韓永著

 北朝鮮の最高権力者、金正日総書記に関する報道は、独裁者、テロリスト、映画狂、好色家などさまざまな憶測が飛び交い、真相はベールに包まれたままだ。
 本書は、北朝鮮の人気女優で金正日の最初の夫人である成ヘリンの甥で、ロイヤルファミリーの一員として成長期を金正日一族とすごした著者が、一族の普段の暮らしぶりや金正日の素顔について語った手記で、身内の告白だけに信憑性がある。
 著者は、北朝鮮の体制に疑問を感じ82年に韓国に亡命。その事実は伏せられてきたが、96年に金正日ファミリーの暴露本を出版。97年、北の工作員に暗殺された。
 本書には、知られざる金正日の素顔がなまなましく描かれている。息子の金正男を溺愛し、5歳の誕生日に「元帥」の称号を贈り、翌年には「大元帥」に昇進させ、息子のことを「副官」と呼んでいたとか、虫歯の治療をいやがる息子に、その代償としてキャデラックを買い与えたとか、親ばかぶりがうかがえる。また、東ドイツの医者に肥満で早死にすると注意され、屋敷に階段をつくらせて毎日上り下りし16㌔も減量したという話は、意志の強さを裏付ける。
 実体験にもとづいた手記だけに説得力があり、北朝鮮の最高権力者とファミリーを知る格好の書といえるだろう。(廣済堂出版、四六判、277ページ、1600円)