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2003/07/18

<韓国文化>文学通して進む韓日交流

小樽市の市立小樽文学館は、2001年に韓国の大学に日本文学図書を寄贈、それ以来、文学を通した韓日交流を続けている。交流の歩みと現況について、亀井秀雄館長に寄稿してもらった。

 市立小樽文学館では、7月18日から9月7日まで「韓国文学展」を開催し、8月の9日と10日には、韓国の大学から4人、アメリカの大学から1人、研究者を招いて、「韓国文学と文化を知る」講演とシンポジウムを行なう。全国に150近くもある文学館で、外国の文学者を取り上げることは必ずしも珍しくはない。だが、国際的学術集会の形で交流を企画したのは、小樽文学館が初めてだと言えるだろう。

 この交流は、2001年の末に「小樽文學舎」という市民団体が、韓国の木浦大学校に、日本文学の研究資料として3300冊ほどの図書を寄贈したことに始まる。

 私は日本文学の研究者として、何回か韓国の学会に招かれたことがあり、韓国の大学では、まだ日本文学研究の基礎資料が十分に整っていない実情を見てきた。他方、小樽文學舎には、小樽文学館で役立ててほしいと市民が寄付してくれた図書が、大量に蓄積されている。その中には、すでに文学館が持っている文学全集のセットが何種類もある。それらを韓国の大学で役立ててもらうのも、市民の好意を生かす一つの道ではないか。そう考え、文學舎と相談して、送ることにしたのである。

 この事業に共感する市民から、さらに図書の寄付が続き、現在では木浦大学校のほか、東国大学校や祥明大学校にも、文学全集や研究書などを贈り、その数は1万冊に達しようとしている。

 初めにお贈りした時、木浦大学校から総長と2人の先生が、わざわざ小樽までお礼に見えた。木浦大学校では「小樽文學舎寄贈図書室」という部屋を設け、全国的な共同利用施設にした、という。それに感激した小樽の市民が、その年の秋、その図書室を見学に木浦大学校を訪ね、韓国文学についての講演をしてもらった。こうして始まった交流が、初めに紹介したような行事に発展したのである。

 韓国には現在、五つの日本語日本文学研究の学会があり、つい先日の7月4日と5日、ソウル市の中央大学校で「韓国日本学連合会 第1回国際学術大会」が開かれた。この記念すべき大会に、私は基調講演に招かれる栄誉を得たが、講演のほか、3つのシンポジウムと、45を超える分科会が開かれ、150名近い研究者が発表するという盛況だった。

 知人に案内されて、大型書店の日本文学コーナーをのぞいて見たところ、日本でもポピュラーな作品はもちろん、島木健作の『生活の探求』の翻訳まであった。

 この作品は1940年代(昭和十年代)のベストセラーであり、思想史的にも重要な作品だが、現在の日本ではほとんど読まれていないし、研究されてもいない。そういう作品までも翻訳している、韓国の人たちの視野の広さと関心の深さに、驚き、感動した。

 韓国における日本語日本文学研究は、明らかに新しい段階に進んでいるが、それに対して、日本における韓国文学や文化への関心はどうだろうか。

 1975年に『三千里』と『韓国文芸』という2つの雑誌が発刊されて以来、関心は確実に広がり、最近は韓国文学の翻訳の点数も伸びている。だが、市民の間に浸透し、それが大学における韓国文学研究の下支えとなるまでには、残念ながら、まだ至っていない。

 今回の行事が、韓国と小樽市民との交流をさらに広げてくれることは、まず間違いない。同時にそれが、もっと幅広い領域での交流と対話の、ささやかながらも着実な、一つの礎石になってくれれば、と願っている。


◆ 市立小樽文学館「韓国文学展」 ◆
   
主催:市立小樽文学館
日時:2003年7月18日~9月7日
  *8月9、10日にシンポジウムあり
会場:小樽いなきたコミュニティセンター
℡0134・32・2388(市立小樽文学館)