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2003/06/20

<韓国文化>人をいやす音楽めざす

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    アン・サリー  1972年、名古屋生まれ。本名・安佐里。東京の大学で医学を専攻。心臓内科医と歌手を両立。4月にニューアルバムを2枚同時発売。現在、ニューオリンズ在住。

 在日3世の歌手、アンサリーが注目されている。心臓内科医でもあり、医業と歌手を両立させている異色のドクター・シンガーだ。現在はニューオリンズ在住。ライブのためにこのほど来日したアンさんに話を聞いた。

 渋谷で先日行われたライブ。満員の観客を前にボサノバ、ゴスペルをはじめ、韓国の詩人、金素雲の詩を歌にした沢知恵の「こころ」まで、一気に歌い上げた。聴衆に癒しを感じさせる透明感あふれる伸びやかな歌声とやさしい語り口が魅力だ。そして「こころ」は、沢知恵とはまた違った”韓国の心”を感じさせる出来映えだった。

 「ジャンルや年代に関わらず、自分が気に入った歌を、自分流に歌いたい。アジア人の自分がどう歌を解釈して歌っているか、それを楽しんでほしい。『こころ』は特にルーツを意識したわけではなくて、沢さんのライブを見て、ぜひ歌いたいと思った。普遍的な名曲だと思う」

 名古屋出身の在日韓国人3世で、東京の大学で医学を学ぶかたわら、音楽サークルで本格的に歌を始めた。2001年10月にデビュー・アルバム『Voyage』を発表。ボサノバ・ギターの第一人者、中村善郎らから才能を高く評価された。今年4月にはニューアルバム『デイ・ドリーム』と『ムーン・ダンス』を2つのレコード会社から同時発売。

 「選曲はすべて自分で行った。シンプルで”自分らしさ”を表現しやすい歌を選んでいる。選曲も歌い方も、常に自然体を大切にしている」

 「在日に生まれたことが音楽表現にどうつながっているか、よく聞かれることがあるが、自分でもよくわからない。ただ日本で育っても、外国人登録証を持たないといけないとか、選挙権がないとか、生活の面でも不便を感じて、日本人ではないとの意識は強く持っている。かといって韓国を訪れてみてみ、やはり旅行者でしか過ぎないし、異国という意識が強い。日本にも韓国にもルーツを見出すことが出来ない浮遊感が、私の歌に反映されているかもしれない。中途半端な存在である自分からどんな音楽を出せるかなと考えているが、それが逆にファンに受け入れられているのかも知れない」

 歌手活動と並行して心臓内科を担当する勤務医として働く。2002年1月から血圧の研究のために、米国のニューオーリンズで生活。週末は地元のライブハウスで音楽を楽しみ、時には出演して歌うこともある。医学と音楽の両方で刺激を受ける毎日だ。研究が終わったら日本に戻り、再びドクター・シンガーの生活に戻る。

 「人をひきつける音楽、いい音楽とはどんな音楽だろう、ということを考え続けているが、それはやっぱり、魂・ソウルのある演奏だろうと思う。医者としての活動も大切にし、人を治す仕事、胸打つ音楽を探す仕事、どちらも一生取り組んで行きたい」