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2003/04/18

<韓国文化>李朝白磁への終生変わらぬ愛情

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    こばやし ひとし 1968年生まれ。国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。成城大学大学院文学研究科美学美術史専攻博士課程後期満期退学。現在、大阪市立東洋陶磁美術館学芸課学芸員。専門:東洋陶磁史。

 著名な陶磁学者であり、優れた陶芸家でもあった小山富士夫氏の特別展「陶の詩人 小山冨士夫の眼と技」が、大阪市立東洋陶磁美術館で開催中だ。韓国陶磁への造けいも深く、なかでも李朝白磁をこよなく愛した小山氏について、同美術館学芸員の小林仁さんに寄稿してもらった。

 小山冨士夫氏(1900-1975)は世界的な陶磁学者であり、また陶芸家でもあった。日本の陶磁史研究の基礎を築いたといっても過言ではない小山氏の陶磁学者としての功績は、今日もなお高く評価されている。中でも1944年、戦時下の中国において、世界の陶磁学者の念願であった宋時代五大名窯の一つ定窯古窯址を発見したことは、小山氏の名を一躍世界的なものとした。銃弾の飛び交う中を必死に陶片を採集したその時の話は、伝説として語り継がれている。

 小山氏の研究業績は、『小山冨士夫著作集 上・中・下(全3巻)』(朝日新聞社、1977-79年 )にまとめられている。中国を中心に、日本・韓国・東南アジアなど広く東洋古陶磁の調査・研究を行ったが、韓国陶磁研究の業績としては戦前の共著『朝鮮陶器』(雄山閣、 1938年)の「高麗の古陶磁」、戦後では『世界陶磁全集』(河出書房 1955、56年)の「高麗陶磁序説」、「李朝陶磁概説」などが著名である。

 とくに戦後は、韓国陶磁史の概説を早くに執筆し、また自らが代表となって設立した東洋陶磁学会で、戦後韓国の陶磁研究の第一人者であった崔淳雨氏(当時、韓国・国立中央博物館館長)を招き、韓国の最新の研究成果を紹介するなど、日韓の学術交流に尽力し、多くの後継者を育てた功績は大きい。

 そもそも韓国とのかかわりは1926年、陶工を志していた26歳の時に初めて韓国を訪れた時に遡る。当時の旅行記には、韓国の風土や人々、そして陶磁器をはじめとしたさまざまな文化遺産に対する、青年小山の素直な感動が随処に見られる。若き日のそうした感動は、韓国の陶磁器への愛着を終世抱かせることになったと思われる。

 「私は李朝のやきものを愛して五十年になる」との言葉に象徴されるように、とくに「李朝」(朝鮮時代)の陶磁器を好んだ。「李朝」のやきものは「自由で庶民的で、自然なひびきがある」もの、「無為無欲な朝鮮独特のやきもので、いかにも朝鮮の風土や民族性が生んだという感じがつよい」ものだった。さらに「李朝のやきものにはいい難い深い憂いとさびしさがある。われわれの心をゆり動かす寥落たる趣があり、李朝のやきものほど魅惑的な深い愛情のもてるものはない」とも述べており、「李朝」のやきものに対する愛情の強さがひしひしと感じられる。

 晩年作陶に打ち込む中で、理想としたものの一つがそうした「李朝」のやきものであったということを、小山氏が生み出した作品の数々に見てとることができる。

 同展では、作陶と研究資料類のほか、小山氏の愛した韓国陶磁の名品、国宝・重要文化財を含む中国・日本の陶磁器、石黒宗麿・荒川豊蔵・北大路魯山人ら交友のあった陶芸家の作品など、バラエティに富んだ作品約110点を紹介し、小山氏の実像に迫っている。

 大阪を皮切りに、東京・根津美術館、箱根のMOA美術館、山口県立萩美術館など巡回展示される。この機会にぜひ足を運んでほしい。


◆特別展「陶の詩人 小山冨士夫の眼と技」◆
 
会   期:4月5日(土)~5月18日(日)    
会   場:大阪市立東洋陶磁美術館      
開館時間:午前9時30分~午後5時   
休 館 日:月曜日(5/5除く)、4/30(水)、5/6(火)
主   催:大阪市立東洋陶磁美術館・朝日新聞社
後   援:社団法人日本陶磁協会・朝日放送  
料   金:一般1200円、高校・大学生800円 
℡06・6223・0055      


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