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2004/11/19

<韓国文化>◇韓日音楽事情◇

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    かわかみ・ひでお  音楽ジャーナリスト。韓日文化交流をナビゲートするレインボー・カルチャー・ナビゲーション代表。1952年、茨城県土浦市生まれ。日本大学芸術学部美術デザイン科卒業。79年より評論、コーディネート活動を展開。著書に「激動するアジア音楽市場」(シネマハウス)など。

 この春から夏にかけて日本中が沸いた“冬ソナブーム”を挟んで、刻々と変化する日韓音楽シーンの最新リポートをお届けしたい。『冬のソナタ』のメガ・ヒット(社会現象化?)の波に乗り、過去半年間、様々なシンガーやエンタティナーが来日し、続々と日本デビューを果たした。

 Ryuやパク・ヨンハ、若手ピアニストのイルマ等、読者諸氏にも認知度が高いアーチストの情報は今回あえて割愛し、“韓流”ブームの中、もっと注目されてほしいアーチストや作品をメーンにスポットを当ててみたい。

 来年の1月で、韓国に於けるJポップの全面解禁から、ほぼ1年の月日が経過する。現地ソウルの有力ショップを覗けば一目瞭然だが、若者を中心にその浸透度や購買力は増加しているものの、未だダイナミックな動きには到っていないのが現実だろう。

 ユニバーサルミュージックが宇多田ヒカルの全米デビュー・アルバムとして発売中の『EXODU』など日本人ビッグ・ネームに関しては、そこそこのセールスは期待出来るものの、幅広いアーチストが店頭に並ぶ状況に到達するのには相当の時間が必要-と筆者は認識しているのだが…。

 ところで、不況も相まってそうした厳しい時代に突入した現地ショー・ビズ界でゲリラ的だが孤軍奮闘中なのが、福岡出身の日本人女性ロック歌手のMAI。

 韓日間で長年音楽コーディネートを展開するJAVAエンタテインメント代表の李榮一氏が発掘し、メジャーのユニバーサルミュージック・コリアが現地では珍しいマキシ・シングルとして発売、骨太のヴォーカルは大きな可能性を期待させるが、弱冠17歳で異国でのデビューを飾ったこのフレッシュな才能が今後どう育って行くのか正に興味は尽きない。
 さて、ダンス・ミュージックやバラードが主流のKポップ・シーンだが、このところインディーズ音楽やサンプリングを活用するラッパーが頭角を表し、クラブ系音楽の普及や国内ジャズの振興などますます面白い展開を見せている。

 去る3月『ファースト・トリップ~初行』(POCY・01691)を日本での第2作アルバムとして発売したのが、現地で超人気のラッパー、MCスナイパー。

 現在NYを中心に活躍を続ける坂本龍一の名曲『ザ・シェルタリングスカイ』を大胆にサンプリングした話題の収録曲『ベイビー・ドント・クライ』は恋人との別離を独特のラップに託した楽曲で、実際そのアレンジに興味を抱いた坂本自身のアルバムでのコラボレーションも実現し一躍時の人となった。

 ポニーキャニオン制作の同アルバムは韓国でもリリースされ、こうした日本サイドの1歩進んだ音楽制作ノウハウが韓国サイドの魅力ある素材を活かした新たな作品の創造やコラボレーションへと推む例が増加するのは必至で、異なる言語や民族色を主張しながら互いに刺激し合うユニークな関係が築き上げられつつあるのは嬉しい限りだ。

 一方、大韓民国の激動現代史と共に歌い続けた2人の国民的大歌手、パティ・キムと李美子が今年それぞれ、歌手生活45周年を迎えた。

 熟年層を中心にパティー、李ともに人気は全く衰えておらず、去る3月新装成った世宗文化会館のこけら落としを兼ねて開催されたパティ・キム45周年記念大会公演は3日間チケットも完売で、彼女の文化的功績に敬意を表しソウル市長自ら舞台であいさつに立つと
言うオマケまで付いた…。

 また、80年代末期に日本でも一世を風靡した国民的歌手趙容弼も今年、歌手生活35周年を迎えた。我が国では『釜山港へ帰れ』や『想い出迷子』など演歌・ムード歌謡畑の歌手と言ったイメージが強いが、40~50代のビートルズ世代には、ロック・シンガーのハシリとして認識されており、最近のKポップの斬新なコンセプトを取り入れた新作『OVER THE RAINBOW』は、現地ヒット・チャートにも進出し大いに気をはいている。

 来るべき2005年、修交40周年を迎える日韓のミュージック・シーンはどう進化して行くのだろうか。“冬ソナ”のネクスト・ステージに向かって今、その矢は放たれたと言えそうだ。