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2004/02/27

<韓国文化>書 評

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◆在日朝鮮人はなぜ帰国したのか  東北アジア問題研究所編

 在日朝鮮人問題の原点に再照明を与えた本である。在日朝鮮人問題を考える上で最も重要な北朝鮮への帰国運動の真実に迫り、在日の戦後史だけでなく、北朝鮮問題、日朝関係を考えるうえで多くの示唆を投げかけている。
 いま日本では拉致問題、核問題が連日のごとくマスコミを賑わしているが、在日朝鮮人問題を通じて、北朝鮮の歴史の真実も見えてくる構成になっている。元朝鮮総連幹部を含む7人の執筆者が①「帰国事業の前夜」②北朝鮮の在日戦略③「帰国事業」の環境④歴史認識⑤東北アジアの未来創造||の5章に分けて論述している(対談含む)。
 1959年から60年にかけて10万人近い在日朝鮮人が帰国船に乗って北朝鮮に渡ったことについては、様々なことが言われている。当時、厳しい差別にさらされていた在日朝鮮人にとっては、「社会主義祖国」への憧れがあった。北朝鮮政権としては、韓国戦争以降の労働不足を補う必要性があった。この帰国事業には総連が先導的な役割を果たし、日本赤十字なの日本も大きな役割を果たした。
 だが、この帰国運動の原点を探る上で在日朝鮮人側には、無視できない大きな事件あった。民族学校閉鎖命令を撤回させた阪神教育闘争と韓国戦線への米軍需物資輸送阻止をめざした吹田事件で、この2つの事件は米国の占領政策と韓国戦争が背景にあった。①「帰国事業の前夜」では、当時の状況をリアルに蘇らせ、「対日占領政策の立案・実施に朝鮮民衆が直接関与できなかったことが21世紀の今日にも尾を引いている」と指摘している。在日に対する差別状況を許した国際政治の的な力学が大きく影を落としており、北朝鮮=「夢の楽園」幻想も育んでしまったのだ。
  副題に「在日と北朝鮮50年」とあるが、在日政策を通じて国際政治で綱渡りする北朝鮮の姿も見えてくる。だが、いま
拉致問題は総連と総連系同胞に大きな衝撃を与えた。北朝鮮の体制を物心両面で支えてきた意味が問い直さざるを得なくなっている。その物心両面で支えた内容はこの本を読めば分かる。北朝鮮との関係を見直す、未来への展望を開く契機なることを願ってのことだろう。
 では、北朝鮮とどう関わればいいのだろう。本書を監修した小此木政夫・慶応大学教授は、
北朝鮮の核問題の平和的解決の後に残されるのは段階的な体制の移行(安楽死)であり、全体主義的体制を長期にわたって保存することはできないと強調している。
 在日朝鮮人問題、北朝鮮問題の本当の問題の所在を知る上で一読に値する。だが、在日韓国人の側からみれば、それでもまだ半分の真実にすぎないという思いがある。(現代人文社、四六判、208ページ、1700円)

 主な執筆者は小此木政夫・慶応義塾大学教授、佐々木隆爾・
 東京都立大学名誉教授、金定三・東北アジア問題研究所理事
 長。


◆一回性の人生  梁 石日著

 在日2世の作家である著者が自分の歩んできた人生を思い出しながら、人生の生き方を説いた書だ。週1回、1年近くにわたる語りを羽田周平氏がまとめた語り下ろしである。
 著者は波瀾万丈の人生を歩んできた。29歳の時、現在の貨幣価値で10億円の借金を抱え経営していた会社が倒産。自暴自棄な生活の末、1日遅れれば空腹のためゴミ箱を漁ったであろう精神の荒廃にあった。タクシー運転手の募集広告に救われたのである。それから10年間、タクシー運転手として生活を営んでいたが、45歳にして初めて書いたタクシー狂躁曲」が作家への道を歩み出した。
 そんな人生訓も折に触れ引き合いに出しながら、どんなに絶望しても必ず道はある、とリストラされた親たち、引きこもりの若者たちに向け励ましのメッセージを送っている。
 本書は、①時代の不安・こころの不安②人生を翻弄する金・モノ・人③生き抜く力・自己肯定力④運命にくさびを打つ||の4章からなる。この中で、若者は「強く求める」ことの大切さを強調している。真剣に願い努力すれば必ず叶うので、頑張れといっているのである。
 多くの辛酸をなめてきたから分かることがあり、人の深奥を読みとれる場合もある。10代の頃から詩や文学に傾倒、経営者やタクシー運転手になっても、初心を忘れなかった。酒場で飲んでいても、詩を書いたりした。それを見ている人がいて新たなチャンスが巡ってきた。そんなこともあるのだ。
 「生きている限りにおいて有効な人生というものがある。つまり最後の最後までわからないのが人生なのだ。残された時間は少ないが、それは終わりのない旅であり、わたしにとって人生は常にはじまりである」(「魂の流れゆく果て」から)
 ともかく、人生を生きる力を与えてくる本だ。(講談社、四六判、220ページ、1600円)

 ヤン・ソギル
 1936年大阪生まれ。デビュー作「タクシー狂躁曲」「タクシードラ
 イバー日誌」はロングセラー。


◆躍動するアジアの国々  窪田光純著

 21世紀はアジアの時代といわれて久しい。本書は、そのアジアの経済発展を牽引する韓国、中国、そして核開発問題で世界の耳目が集まっている北朝鮮の政治・経済について論じたもので、辛口の論評が小気味よい。
 例えば、韓国については、政治的にも経済的にも不安要因が顕在化し、盧武鉉政権は岐路に立たされていると分析。政治的に国家のポジションをあいまいにしていることが問題だと指摘し、太陽政策だけを至上とすれば、米国の信頼を失うと警告している。
 また、経済的課題として、労働争議、若年層の失業、中小企業の衰退、消費の減退などの問題を解決することが急務だとしている。特に労働問題を詳しく論じ、韓国労総と民主労総の2大ナショナルセンターの歴史や特色について開設しており、強硬な労働組合運動を続ければ、外国人の投資が減るばかりでなく、韓国から外国資本が逃げ出すと憂慮している。
 また、韓中経済にも1章を割き、交流の歴史や韓国の対韓投資の推移と現況などについても紹介している。さらに北朝鮮の経済統計、食糧不足、エネルギー問題にも言及、硬直化している朝日関係について、「金丸・田辺訪朝団の蹉跌が原因」と強調している。
 アジアの未来を論じるうえで、韓国、中国、日本の経済協力は不可欠であり、北朝鮮の核問題解決も焦眉の急である。本書は、東アジアの現状を知るための格好の教材といえよう。(海外経済調査会、B6判、175ページ、1200円)


◆承孝相・張永和Works10×2  ギャラリー・間企画・編集

 東アジアの建築家がいま世界の注目を集めている。本書はその東アジアで活躍する2人の建築家、韓国の承孝相さんと中国の張永和さんの建築世界を特集したもので、2人のこれまでの作品が豊富なカラー写真で詳細に紹介されている。
 また工学博士の村松伸さんによる解説「東アジアの建築的国境を越えて」と両氏らとの対談「融合する東アジア建築世界から」は、東アジアの建築事情を知るのに最適な文章となっている。
 韓国の建築界が著しい成長を見せ始めるのは、ソウル五輪を前後した80年代後半のことだ。韓国企業が世界に進出、国内では大規模な建設ラッシュが始まり、それに合わせて建築家が飛躍的発展を遂げるようになった。承さんはその代表格で、これまでに坂州ブックシティ、博英社ビル、済州4・3平和公園などの設計を担当している。
 一方の中国は、最近の急速な経済発展と2008年の北京五輪を控えての都市の再開発、高層ビルの林立が続いている。国内の建築家だけでなく、欧米やアジア各国から建築家を招いて設計に当たらせているほどだ。張さんはその開発ラッシュの中国で先頭に立って活動しており、これまでに北京大学国際会議センター、連続中庭住宅などを設計している。
 東アジアの建築家の創造性と発展ぶりを肌で感じ、今後の東アジアの建築市場と東アジア建築世界の融合に思いをはせることの出来る有意義な一冊である。(TOTO出版、菊判、276ページ、3200円)


◆来た、見た、撮った!北朝鮮  山本皓一文・写真

 北朝鮮取材7回、韓国へは無数、23年間にわたり韓半島を見続けてきたフォト・ジャーナリストの著者が写真と文章でつづった北朝鮮の素顔を写真と文章で集大成したのが本書である。
 初訪朝した1980年のこと、労働党幹部かrふぁ「我が国で獲れた世界一のリンゴを召し上がってください」と言われた。「本当にこの粒の小さい虫食いだらけのリンゴが世界一だと思っていらっしゃるのですか」と聞くと、彼は「戦争で破壊され尽くした瓦礫の土からやっとの思いでこのリンゴを収穫することができたのです、そして我々自身で作ったリンゴを食べられるようになったのです。世界一のリンゴと思わないで食べられますか」と答えた。バカな質問をした私は恥ずかしくて仕方なかった。
 著者の人間らしい思いやりのある視線は文章にも写真にも現れているが、当時と比べても北朝鮮の表情は厳しくなっている。
 本書は①北から見た板門店、南から見た板門店②凍土の脱北地帯③脱北した日本人妻の苦悩④名詞と瘤、金日成会見記などからなり、カラー、モノクロ写真を含め140枚近い写真で写し出された南北の厳しい現実世界に身の引き締まる思いがする。(集英社インターナショナル、A5判、240ページ、2600円)


◆幸福論  関野吉春・長倉洋海著

 本書は、探検家で医師の関野吉晴氏と写真家の長倉洋海氏が「人間にとって幸福とはなにか」をテーマに話し合った対談をまとめたものである。
 関野氏は、アマゾン全流域や中央アンデス、ギアナ高地など南米秘境の旅を重ね、人類がアフリカで誕生し、ユーラシア大陸をへてアメリカ大陸に拡散した道を逆ルートで辿るなど秘境の旅を続けてきた。長倉氏も、時事カメラマンとして、アフリカ、中東、南米など世界各地を取材、二人とも冒険家として共通点が多い。
 対談の中で、アマゾンのマチゲンガという民族の話が出てくる。この民族は、最初は同じ先住民に、次いでインカに、そしてスペインにと、支配され、バカにされ続けてきたのだが、抗戦せず「ヘラヘラ主義」でのらりくらりと対処する。支配されても、決して支配したり、搾取したりしないという。ここに人間の幸福とは何かのヒントがあるように思える。
 あとがきで、関野氏は「人間が好きだ」と述べており、長倉氏も「同じ人間として共に笑い、共に涙を流し、人は相手の瞳を見つめ、ニッと笑うだけでいいのかもしれない」と書く。殺伐とした無秩序の現代社会にあって、この対談は一服の清涼剤のようにすがすがしい。(東海教育研究所、A5判、227ページ、2300円)◆冬のソナタ特別編  特別編集委員会編

 本書は、「冬のソナタ」が忘れられず、感動を分かち合いたいという人々の声を集めて韓国で昨年4月に出版された「冬のソナタの人々」の翻訳出版である。
 それぞれが主人公になって、物語の続きを紡いでみたり、ドラマのワンシーンから着想を得て空想の翼を広げてみたり、「冬のソナタ」ファンならではの愛情がどのページからも感じられ、いまさらながら、ファンに力を圧倒される。
 物語は、目が不自由になったジュンサンが米国から帰国し、ユジンと3年ぶりに「不可能の家」で再会、抱擁するシーンで完結するが、ファンにとってその後が気になるもの。この本に登場する初等学校2年のカン・ユソンの日記には、二人がめでたくゴールインし、ユソン、ジュンソン、ミンソンの子どもに囲まれ、幸せに暮らしている様子が描かれている。ほのぼのとして、これを読んだら、ほんとうに、こんなドラマの続きがみたいと思ってしまうことだろう。
 空想の世界だけではない。ドラマのロケ地を実際に訪ねた紀行文も掲載されており、「冬のソナタ」の舞台の春川やドラゴンバレー、ユジンが住んでいたソウルのアパートなど、事細かにレポートしてあり、ファンなら一度は訪れてみたいと思う。「冬のソナタ」の余韻に浸りたいファンにはぴったりの本である。(晩聲社、四六判、224ページ、1500円)


◆[冬の恋歌]を探して韓国紀行  康 熙奉著

 主人公のペ・ヨンジュン、チェ・ジウとともに、この物語で大きな鍵を握るのがロケ地である。チュンサンとユジンがデートした雪の南怡島、記憶が戻ったチュンサンがユジンとの結婚を決めた冬の竜平、3年の空白を経て劇的に再会した外島など、その美しい風景は「冬のソナタ」のもう一つの主役といっていい。そのロケ地の見所が豊富なカラー写真とともに紹介され、ドラマの感動が甦ってくるのが本書だ。
 いまも大勢の観光客が訪れる南怡島。冬のソナタの主人公の気分でカップルが歩く並木道、ロケで使われたカフェ「恋歌之家」など、ファンならたまらない光景が展開される。
 次に訪れたのが、チュンサンとユジンが高校生活を送った春川だ。春川は鶏、餅、キャベツなどを辛い味噌で炒めた料理「タッカルビ」で有名である。チュンサンが酔っぱらいにからまれたのも、タッカルビ店が立ち並ぶ”タッカルビ通り”である。この通り、そしてチュンサンが事故にあった中央ロータリー、ユジンが育った昭陽洞に著者は立ち、ドラマのシーンに思いをはせる。
 春川を後にした著者の旅はさらに、大人になったユジンが働くソウルの江南、チュンサンそっくりの男性を見つける大学路、竜平リゾート、そして永遠の愛を誓う外島へと続く。外島の美しい庭園やカフェ「パノラマ」の写真がとても印象的だ。
 「ロケ地を回っていてしみじみ思うのは、『よくぞ、これほどすばらしい場所で撮影をしていたものだ』」と著者は最後に語っているが、その言葉通り、とても美しくかつ刺激的なロケ地紀行である。(TOKIMEKIパブリッシング、A5判、208ページ、1500円)