ここから本文です

2005/12/09

<韓国文化>韓国人の心をとらえた日本オペラ

  • bunka_051209.jpg

    こんにゃく座オペラ 「ロはロボットの口」

 オペラシアターこんにゃく座が、在日劇作家の鄭義信台本・演出による「ロはロボットのロ」の韓国公演に取り組んでいる(11日まで)。韓国での反響について、音楽評論家の小村公次さんに報告してもらった。同オペラは17、18日に東京でも上演される。

 〈日韓友情年2005〉の一環として、オペラシアターこんにゃく座が萩京子作曲のオペラ「ロはロボットのロ」(台本/演出・鄭義信)をソウル(12月2~4日)と高陽(6、7日)で上演した。近年、日本と韓国のオペラ交流は活発になってきており、これまでも「カルメン」や「蝶々夫人」といった西洋オペラを両国のオペラ団体が共同で上演したり、自国のオペラ作品を相手国で上演するなどの交流が行われてきた。

 今回のこんにゃく座による韓国公演は、そうした日韓のオペラ交流の歴史に新たなページを刻むものといえよう。というのも、こんにゃく座という団体が〈新しい日本のオペラの創造と普及〉を目的に掲げ、日本語によるオペラ作品の上演とオペラにおける演劇性を重視した活動を行ってきたことに加え、上演作品がこどもから大人まで楽しめる現代オペラだったからである。

 71年に旗揚げしたこんにゃく座は、99年に初の海外公演となるフランスのアヴィニョン演劇祭で林光のオペラ「セロ弾きのゴーシュ」(宮澤賢治原作)を上演し、2001年にはこの「ロはロボットのロ」をインドネシア、タイ、インドの3カ国で、さらに2003年には再び「セロ弾きのゴーシュ」をマレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンで上演しており、今回が4度目の海外公演となった。

 いずれの場合も上演は日本語で行われ、翻訳した台詞を字幕で映す方法がとられた。もちろん字幕はオペラの内容理解に不可欠のものだが、興味深いことにこんにゃく座の海外公演では、観客の多くは舞台の役者たちの歌と芝居にダイレクトに反応していたのである。こうした様子は今回の韓国でも同じだった。

 オペラ「ロはロボットのロ」は、おいしいパンを作ることが得意なパン製造ロボットのテトが、故障を直してもらうためイーストランドにいる生みの親のドリトル博士をたずねて旅する物語である。

 客席には親子連れが多かったが、子どもたちは韓国語の字幕を読んでから舞台を観るというのではなく、役者たちが歌い演じる一瞬一瞬を見逃すまいと舞台に釘付けになっていた。

 このことは、こんにゃく座が創立当初からよく聞き取ることのできる日本語で歌い、オペラの内容をしっかりと観客に伝える舞台を創ってきたことと無関係ではあるまい。

 今回、こんにゃく座の役者たちは現地スタッフの特訓を受けて台詞の一部を韓国語で歌ったり演じたりしていたが、そうしたさまざまな工夫もあって、客席は終始笑い声や歓声に包まれていた。もっとも、その韓国語の発音に少々おかしなところもあったようで、客席の子どもたちが「こうだよ」とばかりその発音を直す場面もあった。

 このオペラには一度聴いたら忘れられない素敵な歌がたくさんある。休憩時に、先ほどの舞台でパン職人のエドが「はあああ/なにもない」と歌っていたのがよほど気に入ったのか、子どもたちはこの歌を覚えて口ずさんでいたのである。これは東京での初演時もまったく同じだった。

 感情を持たないはずのロボットが、人と心を通わせていくというこのオペラの主題は、言葉の壁を乗り越えて韓国の観客の心をしっかりとらえたようだ。

 歌い演ずる舞台が観客にとって身近で共感の持てるものであるからこそ、オペラシアターこんにゃく座の創る舞台は、〈日本語オペラ〉というローカルな枠を超えた現代オペラたりえているのである。今回の韓国公演を観て、そのことを実感した次第である。

◇オペラ「ロはロボットのロ」日本公演◇
日時:12月17日午後7時
    12月18日午後1時、午後5時30分
場所:草月ホール(地下鉄青山一丁目、赤坂見附下車)
料金:前売りA席3,800円、当日4.300円
℡03・3412・7202(こんにゃく座)


  おむら・こうじ 音楽評論家。1948年島根生まれ。広島大学教育学部卒。共著に『伊福部昭の宇宙』(音楽之友社)など。ミュージック・ペンクラブ会員。