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2005/09/30

<韓国文化>生活が育んだ素朴な美意識

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         指貫(コルム=左)と足袋型入れ 朝鮮時代

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    海州盤 朝鮮時代 高さ25㌢(※写真はザ・アモーレミュージアム蔵)

 韓日友情年2005記念事業「モッ 韓国女性の粋(いき)と美」展が、10月4日から東京・目黒の日本民芸館で開かれる。朝鮮朝時代の女性たちの衣装や装身具、家具、食生活用具などを展示する。

 「モッ 韓国女性の粋と美」展は、韓国のザ・アモーレミュージアム(旧太平洋博物館)との共催で行われる。モッは粋・妙味・風雅などの意だ。

同博物館は、化粧品会社アモーレパシフィックの経営する博物館で、約8000点にのぼる女性の文化と茶の文化を中心とした韓国の文化財と文献を所蔵している。

 今回はその中から、朝鮮朝時代の女性に関わる工芸品に焦点を当てて紹介する。ポジャギ、かんざし、指貫などの裁縫具、鏡箱などの身辺道具に加え、白磁壺や小盤など約200点の品々を展示する。

 朝鮮朝時代を中心とする韓国女性の生活美の紹介を通して、女性たちの美意識と生活の願いを再考するとともに、韓日国交正常化40年を記念してより一層の文化交流が実現することを願っての開催。

 また日本民芸館を創設した柳宗悦が朝鮮朝時代の工芸に世界で初めて着眼し、その芸術性を高く評価していたことも記念しての展示会である。


◇美を求めた女性たち 文善周(ムンソンジュ/ザ・アモーレミュージアム学芸研究員)さん◇

 韓国の化粧の歴史は三国時代まで遡る。高句麗壁画の人物から臙脂と白粉を使用していたことが分かる。壁画の人物の服飾と髪型が中国に似ているのと同様に化粧法も中国から影響を受けたものと考えられる。

 その理由として高句麗は地理的に中国と最も近く行き来できたために中国の化粧法を高句麗の女性が取り入れやすかったと推測される。

 朝鮮時代にはこのような伝統がそのまま受け継がれて、朝鮮の女性は客の訪問時に化粧をしたという。開化期には白粉花の種を粉にした白粉が作られたこともあった。白粉は顔に塗る直前に掌あるいは粉皿の中で水で練って、額、両眉間、頬、鼻、口の順に塗っていた。韓国女性の美しくなろうとする努力は、化粧の発達のみならず、装身具の発達も同時にもたらした。

 朝鮮前期の女性像や関連する装身具が残ってないため正確に推定することは出来ないが、朝鮮後期の画家である申潤福の美人図や海南尹氏の家門に伝わる美人図を詳しく見ると女性の体形をあらわにしている。たっぷりとしたチマはお尻を、胸を締め付けて着る袖口の細いチョゴリは女性の極めて細い肩をそれぞれ強調している。さらにその視線と姿態から官能美が感じられる。

 ザ・アモーレミュージアムの所蔵品は朝鮮後期に製作された装身具が多い。ただし、使用したのが王室や両班の女性か庶民の女性かによってその材料や装飾や華やかさが異なる。時には装飾品が華美になりすぎるのを戒めて、王室が華やかな装身具の製作と着用を禁止する命令も下したが効果はなかった。

 それは外部の人が接近出来ない空間にいる女性たちを取り締まることが出来なかったためでもあるが、美しくなろうとする女性の欲求をとめることは出来なかったからでもあろう。

 裁縫道具の中で必需のアイテムは針である。針を保管する針筒、裁縫の際に針を刺しておくための針刺しも大事である。これらは布の切れ端で作られて刺繍が施されたものもあった。針刺しは針をチョゴリや壁などに刺して他の人に被害がないように針を整理するために作られたものである。

 指貫も裁縫には欠かせないもので地域によって作り方が違っていた。京畿道と忠清北道地域では無地の生地を二~三枚重ねて貼り乾燥させた後に、半楕円形の型を取り切りぬいて刺繍を施して作った。慶尚南道地域の指貫は主に牡丹、鶏頭などが刺繍されたと言う。指貫はどんな生地でも作れるもので結婚する前に四十~五十個立作り、嫁入り道具とした。

 展示物が朝鮮後期に集中しており、韓国女性全体を説明するには不十分なところがあるが、大まかなことは推測できると思う。化粧用具、装身具、家具、生活小物は鑑賞するためのものというより、すべて実生活で女性たちが使ったものである。

 韓国女性たちは質素でありながらも美しい装身具、化粧用具、アンパン家具を使い、ポジャギ、針刺しなどは自ら作り、端正で素朴な美意識を表わした。そして、たまには華やかな宝石で飾った装身具や螺鈿を利用した家具や生活の小物を使いながら、度の過ぎない華麗さを追求した。女性たちが使ったこの全ての文化財にはその時代の女性たちの夢が込められている。(民芸2005年9月号より)


◆「モッ 韓国女性の粋と美展」◆
日時:10月4日~12月20日
場所:日本民芸館
  *京王井の頭線駒場東大前下車
主催:日本民芸館
料金:一般1,000円、大高生500円
℡03・3467・4527