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2005/07/08

<韓国文化>心は5歳の青年がマラソン挑戦

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    主人公役チョ・スンウ(左)と母親役のキム・ミスク

 身体は20歳だが精神年齢は5歳の自閉症の青年とその母が、フルマラソンに挑戦する姿を描いた韓国映画『マラソン』が公開中だ。実話の映画化で、韓国では観客動員500万人の大ヒットを記録した。チョン・ユンチョル監督(34)のインタビューと、障害者の子どもを持つ在日の親たちの集まり「ムジゲ(虹)の会」の李京熙さん(49)と申桃順さん(42)の感想を紹介する。

◆障害者理解の一助に 李京熙さん◆

 母親が子どもに密着しすぎと思う人もいるだろうが、障害児を持つ母親にはそういうタイプが多い。産んだことに対する責任をどうしても強く感じるからだ。

 それと主人公はマラソンに挑戦する中で自立心を養っていくが、多くの養護学校ではスポーツを大切にしている。ルールを教えるのに役立つし、卒業後は作業所で働くことになる人が多いので、体力を付けておくことが大切だからだ。

 私の子どもは知的障害で普通の生活は出来ないと診察されたときは、とてもショックだった。それから子育てが始まったが、自分一人でトイレに行くとか、普通の子どもなら当たり前のことでも、自分の息子が出来たときはとても感動した。

 ただ周囲の視線は、映画にも出てくるがやはり気になったし、私は子どもが3人いるが、障害を持った子供の世話に追われた分、他の子どもに寂しい思いをさせたかなという思いはしている。

 本当に苦悩することになるのは、子どもが卒業を迎える時代だ。日本では子どもが20歳のときに審査を受け、障害者年金を受ける。重度の障害者だったら、学校を卒業してもそのまま施設に預ける可能性が高いし、ある意味では気持ちを割り切ることが出来る。

 軽度の障害だと年金支給を受けられず、逆に親の負担が増える場合もある。映画の中で母親が、「息子より一日だけ長生きしたい」と語るシーンがあるが、実は私もそう考えていて、そのため健康に気を配っている。自分が死んだら子どもがどうなるかというのは、本当に切実な問題だ。

 こういう映画が韓国で大ヒットし、日本でも公開されるのはとても意味あることだと思う。障害者とその家族への理解が進む一助に、映画がなってくれればと願う。

◆母親の気持ちに共感 申桃順さん◆

 私はダウン症の中2の息子を持っている。子どもが何を考えているか、どういう世界を生きているか知りたいと思うのは、障害のある子を持った親の共通の願いだろう。映画で、母親の子どもへの執着を過保護という人もいるかもしれないが、それは母親が息子とコミュニケーションを取りたいと願うからだ。

 障害者とその家族に対する社会の無理解に、母親が涙する場面があったが、私も息子がダウン症と診断されて、初めてこの問題と向き合うことになった。障害のある子どもを持つ在日の人たちと連絡を取り合って、会を作ったが、いかに社会が障害者にやさしくないかということを、いまも感じている。中学や高校生ぐらいから障害者と触れ合う機会を増やすことが大切だと思う。

 もう一つ、母親が自分のやっていることはエゴではないかと悩むシーンがあるが、そもそも子育てに何が正しいかというのはないと思う。特に障害児は自分の意見が言えない子が多いから、親は自分が信じることをやらせるしかない場面がある。だから、あの母親の気持ちはよくわかる。

 韓国から障害者の子どもを連れて来た母親と話したことがある。その人は韓国に障害者施設が少なく、夫と他の子どもを残して来日、二重生活をしていた。また自閉症の子どもをほとんど家に置いているという人と知り合ったこともある。

 韓国も以前よりは進んだとはいえ、障害者の社会進出はまだまだなのだろう。社会の認識が早く変化してほしいと切望する。
 
◆普遍的な母子の物語 チョン・ユンチョル監督◆

 ペ・ヒョンジン君のお母さんの手記、そしてテレビのドキュメンタリーに出演しているのを見て、映画化を考えた。最初はスポーツドラマを考えたが、より普遍的な母と子のヒューマンドラマにした。人と人との心の触れあいとは何か、映画を通して訴えたかったからだ。ヒョンジン君を出来るだけ観察して、多くのことを知ろうと思った。本人にも一緒にゆっくり走ってもらい、よく観察したが、楽しそうに走る姿が印象的だった。

 映画の中で彼は多くのユーモラスな行動を行うが、自閉症の人は子供のようだとの印象を持っていたので、子供らしい姿をありのままにみせるのがいいと思ってそうした。

 主演のチョ・スンウは素直な感情表現を、ほとんどアドリブで演じるなど、とても熱心に役に臨んでくれた。また母親役のキム・ミスクは、芯の強い面や感情的になるシーンまで幅広く演じてくれた。2人の熱演にはとても感謝している。
 

 映画の原作本となった母親の朴美景さんの手記も翻訳発売中。タイトルは「走れ、ヒョンジン」(ランダムハウス講談社)。