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2005/05/13

<韓国文化>朝鮮人陶工の物語をミュージカルで描く

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    わらび座ミュージカル「百婆」の公演から。中央は主人公の百婆を演じる丸山有子。九州有田を舞台に韓半島から連行された陶工の妻「百婆」を通して、韓日2つの文化が織りなす人間関係を描く

 韓日友情年記念事業・わらび座ミュージカル「百婆(ひゃくば)」の全国公演が8日、物語の舞台である佐賀県有田町で始まった。韓半島から連行された朝鮮陶工の妻が、夫の葬式を「クニのやり方」で行おうとすることから生じる騒動を描いた舞台で、2つの文化が織りなす人間模様が描かれる。

 「百婆」とは、有田焼400年の歴史に唯一名を残し、有田の母ともいわれる「百婆仙」のことである。

 豊臣秀吉の朝鮮侵略で連行された多くの渡来陶工から尊敬され慕われた百婆仙は、1656年に96歳で亡くなり、その墓は今も報恩寺境内の「蔓了妙泰道婆之塔」に祀られている。

 この舞台の原作である村田喜代子著『龍秘御天歌(りゅうひぎょてんか)』(文藝春秋社刊)は、この「百婆仙」をモデルとした創作である。

物語は、朝鮮人陶工の頭領である龍窯当主辛島十兵衛こと張成徹が死亡したところから始まる。

故国を離れ、さんざん苦労した末に日本で初めての登り窯「龍窯」を築いて、藩主が将軍家に献上できるような立派な陶器を焼き上げるまでにした夫の葬儀に際し、妻の百婆(朴貞玉)は故国式の葬儀を執り行って土葬にしようと望む。

 母の強い願いに、長男の十蔵も麻の服を着て朝鮮式の葬式をと考えるが、藩主から名字帯刀を許された「辛島十兵衛」の葬式であり、代官所からは「特別に白装束の着用を許す」との達しが来ている事情を考慮して、「代官所の機嫌を損ねてはならない」と、母の願いに反し火葬で行うことを決意する。

 こうして日本式で葬儀を行おうとする長男・一族郎党と、百婆の知恵比べが展開される。

 有田町の有田文化体育館で行われた公演には、3日間で約2000人が集まった。有田町の人口の約17%が観劇したことになる。

 公演後、地元の陶芸家という50代の日本の女性は、「不況で焼物の先行きが見えない状況のため、夢を無くしかけていた。しかし、きょうの芝居を見て、先人達の労苦があっていまの有田があることを知り、とても勇気付けられた」と語った。また福岡から来たという日本の男性は、「韓日関係はいまぎくしゃくしているが、この芝居を通して韓日史を知ることが、友好の一助になると思う」との感想を寄せてくれた。

 大有田焼振興協同組合の岩永浩美理事長は、「有田焼の礎を築き、有田焼創業の頃の重要な指導者の一人であった百婆仙を主人公としたミュージカルが、有田で開催されることは、有田焼に携わるもののひとりとして大変うれしい。先人陶工たちのこれまでの労苦を偲び、またその功績に感謝したい」と話した。

 公演は九州各地、東北、愛知、神奈川などを経て来年2月、東京・新宿で行われる。詳細は℡0187・44・3316(わらび座)。
 
 ◆姉妹作「百年佳約」も・原作の村田喜代子さん◆

1945年、八幡(北九州市)生まれ。87年『鍋の中』で芥川賞を受賞。その後、『蟹女』で紫式部文学賞、『望潮』で川端康成文学賞、『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞を受賞している。『龍秘御天歌』の姉妹作として、『百年佳約(百年かやく)』(講談社)も発表している。百婆が死んで神となり、山上の墓から一族を見守る姿を描いたもので、可愛い子孫の「百年佳約」=結婚成就のため、神となった百婆の奮闘を描いている。

 現在福岡県中間市に在住、梅光学院大学客員教授の傍ら、執筆活動を行っている。