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2006/03/17

<韓国文化>「分断の悲劇を伝えたい」

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    クァク・キョンテク 1966年釜山生まれ。高麗大学医学部中退。ニューヨーク大学映画演出科卒業。2001年、実在の友人をモデルにした映画『友へ/チング』を監督し、820万人動員の大ヒット。ほかにも『チャンピオン』『トンケの青い空』などヒット作を作り続けている。

 韓流スターのチャン・ドンゴン、イ・ジョンジェが主演する韓国映画『タイフーン』が、4月日本公開される。南北分断の悲劇をテーマにした作品で、タイ、ロシアなどで長期ロケを行った郭暻澤監督の力作だ。宣伝のため来日した郭監督に話を聞いた。

――脱北者をテーマにした映画だが、構想を思いついたのは。

 十数年前に脱北者の家族が記者会見するようすをテレビで見た。その家族は全員で手をつないでいたが、その中の子どもの視線が印象に残った。その子がもし韓国への亡命に失敗したら、韓国をどんなにうらむことだろうかと考えた。それが映画化のヒントになった。

 脱北者は80年代は政治的亡命、90年代に入ってからは食料危機による亡命が多い。シナリオに作成にあたって、十数人の脱北者にインタビューしたが、その中の3人には特に詳細に話を聞いた。

 映画には悲惨なシーンが数多く出てくるが、彼らの証言をもとに構成している。また私の父は現在の北朝鮮地域の出身なので、父の助言も数多く得たし、励ましを受けた。

――アクションシーンが多く出てくるが、チャン・ドンゴンとイ・ジョンジェの2人は相当に努力したとか。

 イ・ジョンジェは海軍大尉の役を受けるにあたり、長時間かけて肉体訓練に取り組んでくれた。撮影中でもトレーニングを欠かさなかったが、その努力があの鍛えられた体に反映されていると思う。本人も鍛えた体を披露するため、撮影シーンについて意見してくれた。

 チャン・ドンゴンも脱北者で現在は海賊という難しい役を演じるため、体重を7㌔落としてくれた。役作りのため実際に脱北者にも会った。またタイ語やロシア語のセリフも見事にこなしてくれたことに感謝している。

 銃撃戦や爆破シーンのある映画を撮ったのは、実は今回が初めてだ。そのため、特殊撮影の経験豊富なスタッフを集めて、相談しながら撮影した。また事故が起きないように最大限の配慮をした。特にタイやロシアでの撮影は、異国ということもあり大変だった。

――映画で訴えたかったことは。

 脱北者の悲劇は、韓半島が分断されているからだ。戦後の世界情勢の中で不幸にも分断され、それが現在まで続いている。世界で唯一の分断国家だ。そして共産体制が存続している北朝鮮から脱北者が続いている。その悲劇を伝えたかった。

 チャン・ドンゴンと姉役のイ・ミヨンがロシアで十数年ぶりに対面するシーンは、役者、スタッフともとても印象に残っている。

 また映画には米国、日本、ロシア、中国が登場するが、それは世界の中で韓半島がどういう状態にあるかを改めて指し示したかったからだ。

 脱北者というと、どうしても暗いイメージがつきまとってしまうため、韓国で公開したとき年輩の方は大きな興味を示してくれたが、若者の関心はもう一つだった。

 ただメッセージはメッセージとして、映画は楽しく見てほしい。そのためにアクションシーンを数多く取り入れた。楽しんでもらえると確信している。

――在日の映画ファンに一言。

 映画の撮影を通してロシアの高麗人や中国朝鮮族、そして在日韓国人らに世話になったが、彼らも元をたどれば韓半島の不幸な現代史の犠牲者といえる。

 分断の苦しみを知る在日の方々には、日本のファンとは違った意味で、映画に関心を持ってもらえるだろう。


◆あらすじ◆

 80年代、北朝鮮から亡命しようとして失敗した家族の生き残りで、いまは東南アジアを拠点にする海賊グループのリーダーとなったシンが、ロシアから核廃棄物を入手して韓国へのテロを企てる。海軍大尉のセジョンはそれを阻止しようと、タイ、ロシアとシンを追いかけ、壮絶な銃撃戦が展開される。核にさらされた韓半島の運命は…。