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2006/11/03

<韓国文化>美術から食文化まで幅広く

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    緑瑠璃製舎利瓶・金製舎利瓶座(左)と、金製方形舎利函。いずれも益山出土、統一新羅時代

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         金泥塗銅製釈迦如来座像、出土地未詳、高麗時代

 韓国の国立全州博物館と日本の石川県立歴史博物館の提携15周年を記念して、「韓国文化への誘い-全羅北道の歴史と文化」が、石川県金沢市の石川県立歴史博物館で開催中だ。同展の概要を紹介する。

 全羅北道は韓半島南部に位置し、東北から西南に伸びる山脈により、西北平野地帯と東南山岳地帯とに大きく分けられる。蘆嶺山脈に源を発する萬頃江と東津江、蟾津江流域は、沖積平野が発達し、古くから肥沃な土地柄で、物産が豊富であった。そのため、先史時代から東津江を中心に農耕が行われ、このことは多数の新石器時代の遺跡と遺物から確認されている。

 百済が馬韓を併合して以降、全羅道地域では、高句麗・新羅とは異なる独特な百済の美術と文化が繁栄した。「三国史記」百済本記には、百済の建築は“華麗で勇壮である”と記述されている。百済特有の建築様式を代表する物としては、益山弥勒寺跡石塔がある。この石塔は、木造塔を石材で模倣したもので、韓国石塔の始原ともいえる韓国最大の石塔である。

 仏教彫刻の中で、百済の仏像は、高句麗・新羅とは違った特徴を見せてくれる。三国時代唯一の板仏である、全羅北道金堤で発見された銅板仏、南原新渓里の磨崖如来坐像(高麗時代)などに共通しているのは、全体に丸い顔立ちと、その中に浮かべられた親近感を感じさせる微笑である。これらは、豊満さと柔らかさを特徴とする、この地域の仏像彫刻の特色をよく伝えている。

 全羅北道地域から出土した金属工芸品を代表する物としては、益山王宮里五層石塔から出土した舎利荘厳具があげられる。この舎利荘厳具は、統一新羅時代の厳正で精巧な手法で製作されている。百済帝釈精舎の「観世音応験記」という経典から出た遺物と類似するが、舎利荘厳具の材料として、金や金銅を使用した点が独特である。

 また、高麗時代には、他の地域では見られない卓越した技術・技法を用いた青磁が扶安地域で製作され、韓国陶磁文化の優越性が全世界に知られるようになった。

 民俗文化は、その時代の思潮と生活様式に影響を受け、生活文化に密着した文化である。なかでも民俗芸能は、庶民の言葉と身振りを伝える土着的な文化である。

 全羅北道は“ソリの故郷”と呼ばれるほど、さまざまな音楽文化の宝庫でもある。なかでも全羅北道を代表する民俗芸能は、農楽であり、左道農楽と右道農楽とに分かれ、それぞれが独自の特徴を持ちながら継承されてきた。

 パンソリは、湖南地方の叙事巫歌に由来するといわれる。全州にはパンソリ文化館が建設され、毎年盛大なパンソリ文化祭も催されてきた。韓甲徳、金素姫などの優れたパンソリの名人も輩出している。口伝だけで伝承されてきたパンソリを記録化した申在孝も全州の出身である。

 民謡では任実・沃溝・金堤など平野部を中心に農謡が盛んで、つらい農作業を癒すため多くの歌が残されている。巫歌も6字ベギ調のシナウィ(神房曲)は、ほかとは比べ物にならないぐらい素晴らしい音楽性を持っていると評価されている。

 また、全州は伝統的な技術で作られた韓紙と扇子が有名なところでもある。楮桑皮を使って独特な技法で作られる韓紙は、柔らかさと強さを合わせ持ち、何百年もの使用に堪えるといわれる。このような紙の発達と生産は、扇子工芸を発達させた。これ以外にも竹工芸など高い技術水準の伝統工芸品が作られており、全州こそが芸郷の中の芸郷といわれるゆえんでもある。

 飲食文化は、その地方の気候・産物などと関係が深く、自然環境と密接な関係がある。全羅北道は気候が温暖で、飲食の味付けが濃い特徴がある。また、平野部が多いため稲作が盛んであり、海にも近く海産物も豊かで、さまざまな飲食文化が発達してきた。

 さらに、東部、南部は山間地帯で、山の恵みを利用した飲食文化が発達した。京畿道の開城が高麗時代の飲食を伝統的に守り保守的であったのに対し、全羅北道の全州地方は、朝鮮王朝の両班風を受け継いだ固有の飲食文化を育んだ地方である。

 代表的な料理としては、全州ビビンパ、もやしクッパ、エゴマ粥、松の実粥などが挙げられる。他に有名な郷土料理に、南原のチュオタン(ドジョウ鍋)、鎮安の猪鍋などがあり、韓国を代表する食材として淳昌のコチュジャン(唐辛子味噌)も知られている。また、全羅北道のキムチは、“チ”と呼ばれ、その種類がとても多く、北のキムチに比べ辛くて汁が少なく、多種多様な調味料を多く使って作るのが特徴である。(全州博物館展示記録より転載)


■韓国文化への誘い-全羅北道の歴史と文化■

場所:石川県立歴史博物館
日時:11月26日まで開催中
料金:一般700円、大学生550円、高校生以下無料
℡076・262・3236