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2006/07/14

<韓国文化>家族の絆の大切さを描く

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    映画『奇跡の夏』の一場面から

 脳腫瘍にかかった12歳の少年と、家族の愛を描いた韓国映画『奇跡の夏』が、15日から全国公開される。兄を支える9歳の少年ハニを演じたパク・チビン君、14歳の時に脳腫瘍で闘病生活した経験のあるIT会社社長の家本賢太郎さん(24)、がんの子供を守る会の近藤博子理事の話を紹介する。

◆自分自身も成長 パク・チビン君

 役柄のハニが自分と似ていたので、演じやすかった。撮影で苦労したのは雨中に自転車で走るシーン。深夜の撮影が続き、何度も転んだのと後ろから車が来て危なかった。このシーンは自分で一番印象に残っているし、観客にぜひ見てもらいたいシーンでもある。

 脳腫瘍という病気については、聞いたことはあったが、映画の撮影を通してより深く学んだ。映画に登場する李先生は本当の医者だが、その先生に教えてもらった。

 また実際に病院に見舞いに行って、同年代の入院患者と交流もした。一緒に話をして本当に大変だなと思ったし、健康がいかにありがたいかということも感じた。みんな早く良くなってほしい。

 主役は大変だったけれども、それだけ監督が自分を信じてくれるということだと思ったので、毎日がんばった。

 映画はお兄ちゃんが病気になる話だけれど、ぼくも姉さんがいるので、その姉さんが病気になったらどうしようとか、両親を大切にしたいと、撮影を通して考えるようになった。

 希望を持つ大切さを映画から感じてほしい。ハニを演じることで自分自身も成長できたと思う。今後は世界で認められる子役になりたい。

◆命の尊さ伝える映画 クララオンライン代表 家本賢太郎さん

 ハンビョルと同じ年に脳腫瘍という同じ経験をした私には、自らのストーリーを見せられているのかと錯覚するほどだった。

 この作品を見ていると、ハンビョルだけでなく、弟のハニも、お父さんも、お母さんも、必死に病気と闘っていることに気付く。家族全員が、家族のために全力で立ち向かっている。五体満足、健康が当たり前の生活をしている時には家族の健康の大切さなど忘れがちだ。きっとこの映画は、家族の絆とは何だろう、家族にとって本当に大切なことは何だろう、今横にいる家族が病気になったら自分はどうするだろう、と様々なことを考えるきっかけになるはずだ。

 ここまで子供の病気に真正面から向き合った作品には初めて出会った。命の尊さ、病気の残酷さ、病気と闘うことの苦しさ、それを全て正直に、ありのままに伝えようとしている丁寧さが理解できる。

◆社会の支援が大切 がんの子供を守る会理事 近藤博子さん

 がんの子供を守る会は、小児がんで子供を亡くした親たちが中心となって1968年に作った。患者家族の医療相談、親睦、経済支援などに取り組んでいる。映画は子供自身の闘病生活の苦労や、高額な医療費など家族の苦労、子供を亡くした親の苦しみなどがリアルに描かれていて、胸がつまる思いで見た。

 患者の兄と健康な弟が一緒のベットで眠るシーンは、治療上考えられないことだが、兄弟愛を描くためのシーンだろう。苦しみの中でも希望を持って生きる家族の姿に好感を持った。一般の人々にとっては、小児がんやその家族への理解を深める契機になるので、ぜひ、多くの人に見てほしい。

 小児がんは命が助かっても、麻痺が残ったり、疲れやすくなるなど、子供の発育に影響が残る。そのため、成長してから自立できるかという問題が続く。社会全体の支援が大切だ。そういう点にも関心を持ってほしい。


■実話を元にした感動の物語■

 ワンパクで元気いっぱいの9歳の男の子ハニと、3歳年上の物静かな兄ハンビョルは大のなかよし。ある日、ハンビョルが突然、病気で入院することに…。幸せな4人家族を襲った苦しみと悲しみ。「お兄ちゃんの病気は治らないの? 僕にできることはないの…?」家族の幸せを取り戻したいというハニの願いは叶えられるのだろうか?

 元気な少年が初めて人生の厳しさに直面し、家族とともに少しづつ成長していく姿を描いたトゥルー・ストーリー。実際に脳腫瘍の息子の闘病をエッセイにまとめた原作(「悲しみから希望へ」キム・ヘジョン著)を、原作者の妹で『カル』『イルマーレ』などの脚本家キム・ウンジョンがシナリオに執筆。それを、新鋭イム・テヒョンが映画化した。韓国で100万人を超える大ヒットを記録。

 主人公ハニを演じるのは、10歳の俳優パク・チビン。本作の熱演でニュー・モントリオール国際映画祭の主演男優賞を受賞。

 映画は韓国が舞台となっているが、実際にキム・へジョンさんの長男が脳腫瘍に冒されたのは2002年、カナダのバンクーバーに移住して10カ月後のことであった。長男は当時10歳。家族は現在もバンクーバーで生活している。長男は片目を失明したが、健康は大分回復し、14歳になった。弟は11歳で演劇と歌を習っている。キム・ヘジョンさんはライターを続けており、夫はバンクーバーの大韓航空で働いている。