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2006/05/26

<韓国文化>◇韓日音楽事情◇

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    かわかみ・ひでお 音楽ジャーナリスト。1952年、茨城県土浦市生まれ。日本大学芸術学部美術デザイン科卒業。79年より評論、コーディネート活動を展開。著書に「激動するアジア音楽市場」(シネマハウス)など。

音楽ジャーナリスト 川上 英雄 

 このところ、日本そして韓半島で起きたいくつかの出来事や事件に筆者は、長年隣国を愛し続けて来た一人の日本人として複雑な想いを抱いている…。

 拉致を筆頭に、一向に明るい展望が見えない日朝関係。南北の融和ムードで沸き立つ中、左傾化する韓国社会。韓流ブームの裏で嫌韓感情も増殖する日本社会―などなど。

 今や、マスコミの報道姿勢も日韓の間では国内感覚が幅を利かせているだけに様々な情報に一喜一憂する読者諸氏もこの時期少なくないのではあるまいか…。

 さて、日本国内においても在日本大韓民国民団と朝鮮総連との和解が注目を集めているが、これまで反目して来た在日コリアン社会の中で長年異色の活動を展開し続けてきた音楽プロデューサー、李チョルウ氏監修による名鑑『アリランの謎(キングレコード/KICG―3230)』にスポットを当ててみたい。

 韓国・朝鮮民族の歌『アリラン』の歴史と背景を様々な音源と解説で辿り、数々の謎に迫った内容は、まさに音楽文化人として二つの祖国と日本へ半生を捧げた李氏ならではの愛の結晶であり、二つの民族への贈りものであろう。

 そして、在日の音楽文化人なればこそ出来得た仕事と、筆者は認識して止まないのである。特に日韓だけでなく北朝鮮での珍しい録音や旧ソ連そして米国と、歌を通して広がるネットワークの力は、まさに音楽に国境がないことを実感させてくれる。

 今を生きる在日コリアンのみならず、日本人そして南北の音楽愛好家にもぜひ聞いて頂きたいと、筆者は願っている。

 仮に続編のアルバムが企画出来るものなら、筆者が韓国の友人から頂いた米国のジャズ歌手、ナット・キング・コールの韓国語歌唱による『アリラン』や、パティ・キム女史が60年代に東京で吹き込んだ英語歌唱による『ARIRANG』の音源なども御提供させて頂ければ光栄である。

 ところで、この時期、この場を借りてどうしても御紹介したいアルバムがもう一枚ある。

前述のアルバムが南北そして日本の音楽ファンへの贈りものであるなら、本作は一人でも多くの日本人そして韓国人に聞いてもらいたい。

 すこし手前ミソになるが、80年代後半の日経エンタテインメント誌創刊の頃から、紙上で筆者が主張してきたワン・ソフト・マルチ・ユース(一つの楽曲を複数の言語で収録して音源化する)時代が遂に日本へも定着したと実感している。

 去る3月初頃、日本のベテラン女性歌手、森山良子がリリースした韓流ドラマと映画のヒット曲集『ティアーズ~森山良子韓流アルバム~』(DREAMUSIC/MUCD―1135)がこのところ好調なセールスを記録しているからだ。

 『さとうきび畑』と『涙そうそう』のヒットとスタンダード化もあって国民的歌手の仲間入りを果たした森山だが、ドラマ『冬のソナタ』のテーマ曲『最初から今まで』を筆頭に、現在NHKで放映中の『宮廷女官チャングムの誓い』の編入歌まで全14曲をフューチャリング。優しく聴き手を包み込むような歌声は、他の追従を許さない。特に自作の韓国語バージョン『あなたが好きで』の丁寧な韓国語歌唱は出色の仕上がりぶりを示しており、近い将来、韓国での発売も期待したい。こうした試みが再めて日韓の若い世代間の共存、共生への架け橋となることを切に願って止まない。