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2007/07/20

<韓国文化>死刑制度通じ赦しと救いを描く

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    映画『私たちの幸せな時間』。主演のカン・ドンウォン(右)とイ・ナヨン

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    ソン・ヘソン 1964年ソウル生まれ。浅田次郎の小説を映画化した『ラブ・レター~パイランより~』(01年)で青龍映画賞監督賞を受賞。プロレスラー力道山の一代記を描いた『力道山』(05年)で大鐘賞監督賞。

 韓国映画『私たちの幸せな時間』が、全国公開中だ。原作は韓国の人気女性作家孔枝泳(コン・ジヨン)で、100万部のベストセラーとなった。それを『力道山』のソン・ヘソン監督が映画化、韓国で300万人を動員した。ソン監督の話を紹介する。


 ――映画化しようと考えた理由は。

 原作は私が描きたかった人と人との疎通・救い、そういった素材を扱っていたので映画化したいと思った。小説が映画化され、カン・ドンウォン、イ・ナヨンが出演する効果もあり、小説と映画がシナジー効果を起こして両方ともヒットしたと思う。

 ――カン・ドンウォン、イ・ナヨンという美男美女俳優を起用した理由は。

 ハンサムな青年が死ぬ状況を作ると、観客が感情移入しやすいというのがあった。また、一緒に撮ることで2人に俳優として上達してほしいと思ったし、私自身もこの映画を通じて何かを成し遂げたいと考えた。

 例えて言うならば、家を最初から彼らと建てていきたいと思った。この作品はとても現実的なストーリーだが、主演の2人はある種童話的なイメージがある。しかしそういった彼らが演じることで、逆に重みを作ってくれるのではないかと考えた。そして実際に彼らはうまく演じ、今までになかった面を見せてくれた。

 ――面会室のシーンが多く、さらにこの面会を通して2人の心境の変化を描かなくてはいけなかったと思うが、どんな演技指導を行ったか?

 この映画の中で面会室はとても重要な部分だった。2人の面会シーンをどう撮るかが、この映画を成功させるか否かのキーだったと思う。私としてもかなり悩んだ。

 今まで出演した作品では、2人ともさほど多くのセリフを話すことはなかった。それに比べてこの映画では、2人とも比較的多くのセリフがあったし、心理的に深い演技も求められました。そこで、その時の状況がどうであるかを2人に理解させ、後は2人の演技を見守った。そのことで演技を引き出せたと思う。

 ――この映画が公開されたことで、死刑制度廃止運動が再び盛り上がったと聞いた。撮影時、死刑制度に対してどう考えていたか。

 死刑制度に関して廃止すべきか、維持すべきかと深く考えたことはない。ただ法律とはいえ、どうして人が人を殺せるのかと思ったことはある。この映画を撮るに際して実際の死刑囚に会ったが、死刑制度に対してより考えるようになった。もちろんこの映画は死刑制度という素材を扱っているので、多くの人たちにその問題点を思い起こさせたと思う。ただこの作品が死刑制度の矛盾を訴えるよりも、人が人を殺すことがいかに胸の痛む事なのかを感じさせることが出来れば、それで十分メッセージが伝わっていくと思った。

 ――実際に死刑囚に会って、何か影響されたことや作品に取り入れたことはあるか。

 実際に会った死刑囚があまりにもいい人に見えた。人を殺めて10年経った死刑囚が、表情は穏やかで、憤りや憤怒をまったく感じさせない。そういう事が私たちを困惑させた。

 ただ死刑囚と会って、死刑という素材を扱った映画を下手には撮れないという思いを、役者、スタッフが共通して持てたことは大きかった。

 また死刑囚は全員男性なので、イ・ナヨンさんが来ると聞いて眠れない人がたくさんいたそうだ。また映画の中で小物として使っているネックレスは、実際にある死刑囚が徹夜でイ・ナヨンさんの為に作り、会ったときにプレゼントしたというエピソードもあった。

 ――映画の中で何度も出てくる“赦す”に必要なのは何か。

 本当の話、真実を話す心が必要だ。映画の中でも何度か「本当の話をしよう」というフレーズが出てくるが、本当の話が出来てこそ心が開けると思う。逆にそれが出来ないと、いつまでも心の壁を崩すことは出来ないので、本当の話をする心からお互いの赦し・救いが生まれてくると思う。

 ただ、確かに映画の中で赦すという言葉がたくさん出てくるが、実は私はそう簡単に人を赦すことは出来ないと感じている。

 ――観た人にどんなことを感じとって欲しい?

 『私たちの幸せな時間』という映画を観て、その2時間が皆さんにとって幸せな時間に感じとれればいいと思っている。


◆蓮池薫翻訳で刊行◆

 映画『私たちの幸せな時間』の原作「私たちの幸せな時間」(孔枝泳著)の日本語版が、新潮社から発売中(定価1900円・税別)。

 翻訳は拉致被害者の1人で、現在は新潟産業大学で韓国語の非常勤講師を務める傍ら、翻訳家としても活躍する蓮池薫さん。原作者のテンポの良い文体を流麗な日本語で表現した。