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2007/06/22

<韓国文化>鵜山仁さんに聞く・「アジアとの新たな出会いを」

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    2002年に新国立劇場が手がけた韓日合同公演「その河をこえて、5月」(撮影・谷古宇正彦)

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    うやま・ひとし 1953年奈良県生まれ。劇作家・演出家。慶應義塾大学仏文学科卒業。舞台芸術学院を経て文学座付属研究所入所。代表作に「グリークス」「父と暮らせば」「コペンハーゲン」など。オペラでも数々の話題作を手がける。9月新国立劇場演劇芸術監督就任予定。

 演出家の鵜山仁さんが、新国立劇場の演劇芸術監督に9月から就任することが決まった。「アジアとの交流に力をいれ、日韓演劇界の発展に寄与したい」と話す鵜山新監督に話を聞いた。

 ――就任にあたっての抱負は。

 4つの指針を持って臨みたい。第1は「大きな物語の再生」だ。古典を読み返し、かなたの大きな物語と小さな日常を対比させてみたい。

 第2は「新劇」の再発見だ。欧米の近代戯曲と日本の現実がぶつかり合って出来た「新劇」を、もう一度われわれのものとして提供したい。そして第3がアジアとの出会いになる。隣人との触れ合いを考えることは、必然的に我々の歴史、現実、未来のあり方を直視することだからだ。第4は「同時代をともに生きる新しい作家たちとの出会い」だ。世界の同時代の作家との出会いの中で、新しい視野を広げていきたい。

 ――第3のアジアとの出会いについて、詳しく聞きたい。

 現代劇は西洋志向、西洋の影響を受けているが、東洋との関係が抜け落ちてきた。これまでアジア演劇との交流はあっても限られたものだった。アジアとの新たな出会いを創造的なエネルギーに変えていきたい。

 そしてアジアとの交流を考えるときには、第2次大戦という歴史を考えざるを得ない。以前、香港で出会った演劇人だが、その人は自分の父が日本軍のスパイだったと話してくれた。日本統治下の国々では、残念ながら人々の間に多くの複雑な出会いがあった。

 また、日本は唯一の被爆国であり、原爆の恐ろしさを世界に伝えているが、当時、原爆投下によって戦争が早く終わると感じた人々が、米国にもアジアにも大勢いたことも事実だ。

 人々の中にある矛盾、相反する立場が、国家、歴史というものの中で噴出してきた。日韓、そしてアジアの人々にはどんな関係があったのか、それを演劇を通して表現してみたい。

 ――個人的な韓国、在日との交流は。

 関西出身なので、部落差別や在日への差別の問題はいわば身近にあり、考えさせられることが多かった。

 十数年前になるが、韓国独立運動家で伊藤博文を暗殺した安重根をテーマにした韓国の劇団による創作劇「寒花」を見る機会があった。日本では伊藤博文を知っていても、安重根を知る人はほとんどいなかったし、私もその一人だった。韓日で180度視点が違うことに驚いたし、日本植民地時代にはさらに多くの隠された事実があることも知った。演劇を通して日韓の人々がもっと知り合えるのではと、その時に痛感したし、すでに民間交流を行っている人々とも知り合いになった。

 2001年に日本、韓国、中国の劇団と共同で3カ国語を使った西遊記を作ったことがある。とても面白い経験で、人と人の関係をどう作っていけばいいか、コミュニケーションに対する考えが広がった。

 ――韓国の梁正雄さん、在日の鄭義信さんによる新作合同公演「焼肉ドラゴン」が来年4月に上演されるが。

 実力ある演出家を招請し、ともに演劇をつくっていくことが出来るのは大変やりがいある仕事だ。「焼肉ドラゴン」は在日家族を主人公に、日韓の過去、現在、未来を見つめる意欲作で、新国立が手がける日韓合同公演としては2002年の「その河をこえて、5月」以来になる。在日の人たちのことは韓国でもあまり理解されていないようなので、反響が逆に楽しみだ。

 今後、演劇論、役者に対する教育システム、演出方法など、様々なテーマで時間をかけながら日韓交流を深めていきたい。それが長期的に両演劇界の発展につながると確信している。楽しみにしてほしい。