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2007/05/11

<韓国文化>チャングム時代の王朝衣装

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    翟衣(20世紀初頭) 王妃らの最高位の礼服。李方子妃の婚礼衣装である

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    「鳳凰モリコジ」 19世紀 金糸で精巧に編まれたかんざし。「銀大三作ノリゲ」

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    19世紀 虎の爪、蝶など吉祥文字を組み合わせた豪華な飾り

 韓国伝統衣装や装身具を豊富なカラー写真とともにわかりやすく紹介した「朝鮮王朝の衣装と装身具」が、淡交社から出た。訳者のひとりである原田美佳さん(駐日韓国大使館韓国文化院常任専門委員)に、出版の意義について聞いた。

 テレビドラマ「宮廷女官 チャングムの誓い」は、ストーリーの面白さもさることながら、宮中での皇后をはじめとする王族や女官たちの華麗な姿によって、韓国の伝統的な衣装や装身具が広く日本に紹介されたドラマでもある。

 このほど出版した『朝鮮王朝の衣装と装身具』(淡交社刊)は、そのチャングムの生きた朝鮮王朝時代(1392―1910年)の装身具を中心に韓国の風雅な装いを紹介する本である。

 梨花女子大学澹人【タミン】服飾美術館の張淑煥館長のすばらしいコレクション写真を中心にし、表紙や序では梨本宮家から嫁がれた李方子妃の婚礼衣装である翟衣【チョグウィ】など国立古宮博物館(旧宮中遺物展示館)や国立民俗博物館の所蔵品写真も掲載することができ、美しく見ごたえのある内容となっていると自負している。さらにテキスト部分では、韓国文化を知るためのキーワードをつけた。

 張先生は、これまでに日本で行なわれた「朝鮮王朝の美」展などの展覧会に、コレクションの装身具を出展された韓国を代表する装身具の専門家である。

 母堂、張富徳氏が宮中で下賜されたものが基礎となった先生のコレクションは知る人ぞ知るすばらしい一級品の数々であり、美術館の名にもなっている澹人は母堂の号である。

 美術館には4000点ほどが収蔵されているが、先生は生涯のほとんどをこれら装身具の収集と研究に費やしてこられた。偶然に出会ったものから、散りぢりになっていたものがたぐり寄せられるように集められたもの、なかには、家屋敷までを処分して費用を捻出された品々もあると聞く。先生の集めたいと願う意志の強さなのか、それとも、物にも行きたい、行くべき場所があるのかもしれない。

 朝鮮王朝時代の上流層の女性たちは、天然染料をふんだんに使った鮮やかな色の、福を招く吉祥文様が刺繍や金箔などで施された衣装や、宝石や七宝など贅を凝らした指輪や耳飾り、かんざしなどの装身具で身を飾った。さらに、これらの装身具には、扇やノリゲにつけて飾らされるメドゥップ(組み紐)などで多彩な装飾が施されており、当時の女性たちの願いや幸福観などが読み取れる。

 装身具というと女性のものばかりに目が行きがちであるが、男性の装いも劣らず美しい。男性たちは社会と関係を持ちながらの美を追求してきた。室内にあっても衣冠を整えていなければならず、なかでも冠や帽子といった頭の飾り物は、日本と比較するとその種類の多さを特筆できる。

 朝鮮王朝時代の政治の基準になった法典『経国大典』には、冠婚葬祭での冠、服装、持ち物などについて身分に応じて細かく規定され、その後も、笠や冠に関する制度、衣制改革といった法律を通じて、さらに補完されていったのである。

 このように、朝鮮王朝時代の支配層であった王族や両班階級の人々は、厳しい身分制度に伴う服飾制度に従いつつ、自らの品格や身分を表わす美しい装身具を身につけていたことがわかる。

 こうした装いの中に広がる韓国の文化の中の風流、風雅などと訳される「モッ」の表情、そしてモッを追求しつづけた韓国人の心を、本書から感じて頂ければ嬉しい。(駐日韓国大使館韓国文化院常任専門委員)