ここから本文です

2007/03/23

<韓国文化>世界を席捲する韓国人歌手

  • bunka_070323.jpg

    熱狂的な拍手に応える出演者たち。「世界に誇る韓国のオペラ歌手たち」第1回公演より(写真提供:ヴォイス・ファクトリー

 第4回「世界に誇る韓国のオペラ歌手たち」が30日、東京のオペラシティで行われる。世界に誇る韓国の声楽家を日本で紹介することを目的に、2005年5月に始まった企画だ。主催者の輪島東太郎氏(ヴォイス・ファクトリー社長)に、同音楽会の意義について文章を寄せてもらった。

 先日、韓国音楽界をあるニュースが走った。世界4大歌劇場の一つ、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場での「椿姫」上演にあたり、主役3人全てを韓国人歌手が務めたのだ。いま欧米では当たり前になりつつあるオペラ界での韓国パワーを改めて実感した。

 そもそも韓国はアジア屈指の「声楽家輩出国」であり、まさに「アジアの声楽大国」と言える存在だ。欧米を拠点に活動するオペラ歌手の数は既に70人を越えており、質量共に日本とは比べものにならない。一方日本はオペラに対して大きな市場を持つ国であり、欧米各地のオペラハウスがこれほど頻繁に引越し公演を行う国は他に例が無い。

 本場の歌劇場では既に貴重な存在となった韓国人オペラ歌手たちだが、日本で彼らの歌声に触れる機会は極めて少ない。

 我国には依然として、韓国人オペラ歌手たちがその実力に相応しい活躍をすることを阻止する「見えない壁」が存在すると言わざるを得ない。

 なんとかこの状況を変えよう。私たちが2005年5月に初めて東京オペラシティコンサートホールで、駐日韓国大使館・韓国文化院と共同で「世界に誇る韓国のオペラ歌手たち」と題する演奏会を開催したのには、その様な背景があった。

 「彼らの歌声に触れた人はきっと心を奪われる」、そう信じていた私たちだが、演奏会で目の当たりにした凄まじいまでの聴衆の感動と熱狂は、公演を行った私たち自身の心をも大きく揺さぶった。やがて、「苦労してもこの事業を続けなければならない」という思いに突き動かされ、これまで3回の公演を行うこととなった。

 過去3回の公演の度に多くの感動の声を頂き、また「こんなに素晴らしい歌手たちの存在さえ知らなかった。ありがとう」と、主催者である私たちにも音楽ファンから感謝の声が届くという嬉しい現象が続いている。いま。30日に東京オペラシティで行う第4回公演の準備に追われている。

 4回目となる今回も名歌手が顔を揃える。初回から毎回参加しているまさに「国民的声楽家」と呼ぶに相応しいバリトンのチェ・ヒョンス。技術と知性の完全なる融合ともいうべきその歌の品格の高さは世界的にも類が無いのではないか。

 3度目の参加となるパク・チョンウォンは今を盛りに咲き誇る大輪のソプラノ。完璧なベルカント唱法に裏打ちされたみずみずしい美声が毎回聴衆を熱狂させている。「歌うために生まれてきた」歌手とは、彼女のような人を言うのだろう。

 やはり3回目となるキム・ヨンファン、初登場となるカン・ムリムの二人のテノールは、慢性的にテノール不足に悩む世界のオペラ界において、その層の厚さを改めて感じさせるに違いない。

 私事で恐縮だが、10歳でオペラの魅力にとりつかれ、30年以上もそれを心の栄養として過ごしてきた。しかし私自身何を隠そうほんの数年前まで、韓国のオペラ歌手にこれほど傾倒するなどということは想像さえしていなかった。欧米の歴史的演奏家たちによる数え切れないほどの演奏や録音に接した末に、突然彼らの歌声が響いてきた。何がこれほどまでに私たちの心を捉えるのか…。

 それは、彼らの歌の根底にある韓国人としての「心」そのものなのだと思うようになった。韓国では声楽家の多くが、幼少期に「祈りの場」である教会でその才能を認められていくのだそうだ。数々の歴史的な大歌手を生んでいた頃のイタリアと同じなのだ。それと同じ土壌がいま韓国にある。芸術家にとって一番大切な「精神」や「心」を育む場から彼らの歌が生まれるのだとすると、韓国人オペラ歌手がいま世界を席捲しているのは当然の結果なのかもしれない。

 韓国人オペラ歌手の前に立ちはだかる壁を崩すのは、「この歌を、この声を、自分の大切な人にも聞かせたい」と感じてくださる聴衆の力だと信じている。その壁を越え、世界の歌劇場と同様、日本でも彼らがその実力に相応しい活躍が出来る日が来るまで、この事業は続けていかなければならないと思っている。「韓国人オペラ歌手こそ、私たちアジア人が世界に誇るべき宝である」と、多くの日本人が感じる日が来るまで。

◆後援会が発足◆

 同コンサートを毎年春・秋2回の継続事業とするため、法人・個人を対象に、一定枚数チケットを購入する形の後援会が発足する。詳細は℡03・5388・0041。