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2008/09/12

<韓国文化>技巧を排した素朴な美

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    龍型錠 朝鮮時代 高4㌢ 幅13㌢

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          ヨルスェッペ 朝鮮時代 長45㌢ 幅30㌢

 「特別展 韓国の鍵と錠」が、東京・駒場の日本民藝館(小林陽太郎理事長)で開催中だ。ソウルのセッテ博物館の所蔵品の中から、朝鮮朝時代の鍵と錠150点、閂(かんぬき)30点、ヨルスェッペ(キーホルダー)30点を紹介している。同博物館は韓国の伝統的な鍵と錠をテーマとした私立博物館だ。同展に寄せた崔弘奎・同博物館館長の文章を紹介する。

 韓国工芸品に対して特別な愛情を見せた柳宗悦の精神が生きている日本民藝館で行われる今回の展示は、韓国伝統文化を韓国の伝統の鍵と錠を通じて広く伝えようとするものである。

 今回の「特別展 韓国の鍵と錠」ではセッテ博物館の所蔵品の中から鍵と錠150点、閂(かんぬき)30点、ヨルスェッペ30点を紹介する。

 セッテ博物館は韓国の伝統錠前、閂、ヨルスェッペなどの鍵と錠をテーマとした私立博物館で、日本民藝館と同じように日常でよく便用され、使えば使うほど特有の美しさを発揮して完成される工芸品の美に注目している。そのセッテ博物館所蔵の鍵と錠、閂、ヨルスェッペについて順を追って説明すると次のようになる。

◆鍵・錠

 錠は「錠を掛ける機能」に注目して使う生活用具や、伝統的で実用的な機能よりも「他人のものに手を触れるな」という警告の意味を持つ象徴的な概念も示す。そして、実際保安機能を厳重に行うことはなかった。

 韓国の錠は写実的表現や華麗さが抑制され、比較的単純で図式化された姿で現れており、素朴で不必要な説明や技巧が排除されている。また錠には寿福康寧、富貴多男などの吉兆文や仁、義、礼、智などの交友文またはこれを象徴する各種動、植物の模様が刻まれた。これは装飾の目的よりも使用者の日常的な願いと希望を代弁してくれる呪術的な目的による。

 このように錠は生活に深くかかわりながら形成された実用的な用途の製作物であったが、使用する人々の要求と願いを模様や形態で表しながら象徴的に当時の文化的特性と時代をも表現している。

◆閂(かんぬき)

 閂とは伝統韓国家屋の門の内側に付いていた鍵で、具体的には両側の門扉を閉めることができる木の棒を言う。閂は門の大きさと場所、地域によってその模様と大きさが違い、主にどこにでもある松の木を利用して作られた。閂を使用するにはこれを掛けるための部分が必要だが、これをドゥンテと言う。約30㌢程度の木の板を利用して作るドゥンテは門の扉に付着する面の中間部分に閂が掛かる大きさにへこんだ凹を彫る。そして、その表側には模様を彫ったり面や端を整えて飾った。

 ドゥンテは吉兆の動物の形象で作られたり、模様を彫刻して使用される場合が多いが、大部分が亀の形である。神亀と呼ばれる亀は竜、鳳凰、麒麟と共に四霊獣のひとつであり、3000年生きると伝わっていて昔から守護と長生の動物として知られていた。また丸く隆起した甲羅は天を表し、その表面には星が現れていて、平たいお腹は地を表した。また亀の体は天地陰陽の力を現すものと言われ寿命と宇宙の象徴ともされた。

 これ以外にも亀の頭は男性の生殖器に似ていることから生命と多産、繁栄と祈願の意味があり、一度噛み付いたら放さない習性から閂でしっかり閉めるという意味も持つ。

◆ヨルスェッペ

 これは開金(鍵の意)牌または別銭(記念硬貨の意)牌と呼ばれる一種の装飾物である。一般的にいくつかの鍵をつなぐのに使われる簡単なホルダーを指すが、木彫りや鹿の角彫りのホルダー以外に葉銭(一般に使用された通貨)、別銭、飾り、結びなどの装飾品として、華やかな一種の鑑賞用品でもあった。そして婚礼の結納として使われ、嫁ぐ娘のために母親が作った。

 ヨルスェッペをこのように華麗に飾った理由は、そこに人生の百般福録の意味があるからである。鍵は全ての物を入れて鍵を閉めることを保護し、また必要な時に取り出して使用できる。鍵は使用する行為を通して物質生活も向上させるが、さらに家内安全と幸福を、また鍵で開けて増やすという福の意味を持っている。家での経済活動と道徳・倫理生活を引き受ける女性たちが、全てのものを鍵で開けたり閉めたりしながら見えない五福が入ってくるように保護する。

 一般に工芸品には、それを享有する社会の中の、素朴だけれど現実的な要求が込められており、それを約束する符号のような意味を特っている。そんな工芸品の中で鍵をかけて守るという機能を行っていた錠前、閂、ヨルスェッペに含まれた意味を調べてみるのは、韓国伝統社会で追及されてきた価値と世間を見つめる視線を理解する良い道標となるであろう。これだけまとまった展覧会は日本初のことでもあるので、是非この機会に日本民藝館へ足を運んでいただきたく思う。(崔弘奎・セッテ博物館館長)