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2009/05/29

<韓国文化>演劇交流で相互理解を

  • 演劇交流で相互理解を①

           「壁の中の妖精」ソウル公演

  • 演劇交流で相互理解を②

            「ブラインド・タッチ」 photo / LeeDohee

  • 演劇交流で相互理解を③

    わだ・よしお 1951年山口県下関生まれ。早稲田大学在学中より演出を始める。代表作に『ウィンドミル・ベイビー』(楽天団)など。楽天団代表。日本演出者協会理事長。

 韓国演劇演出家協会と日本演出者協会が中心となり、韓日の文化交流を目指すイベント「第1回日韓演劇フェスティバル」が、6月1日から30日までの1カ月間、東京・豊島区のあうるすぽっと(豊島区立舞台芸術センター)で開かれる。現代史を見つめ直した韓日5作品が上演されるほか、シンポジウム、在日歌手のライブなども行われる。同フェスティバルの意義について、和田嘉夫・日本演出者協会理事長に文章を寄せてもらった。

 この数年、「韓流ブーム」が続いているが、演劇に関しては残念ながらほとんど知られていない状態だ。大ヒットした韓国の映画『殺人の追憶』や『トンマッコルへようこそ』などの作者、金光林(キム・グァンリム)、張鎭(チャン・ジン)は、まず劇作家として活躍を始めたのだが、彼らがどんな戯曲を書いているのかという関心には結びついていない。

 俳優に関してもそうで、舞台で活躍している俳優がテレビドラマや映画に出て人気を得たとしても、彼らがどのような舞台の仕事をしているかという関心には結びついていない。映像媒体の方が、生身の直接の表現より評価されていることが非常に残念で、この現状を打開したいというのが、フェスティバルを企画した理由の一つだ。

 もう一つの理由は、「在日」の文化を紹介したいということだ。「韓流ブーム」で韓国の本土の文化への関心は高まったが、「在日」の文化への関心はむしろ後退しているのではないか、と感じる。昨年、私の敬愛する「在日」の劇作家・演出家の鄭義信(チョン・ウィシン)さんが書いた『焼肉ドラゴン』は、韓国・「在日」・日本の劇作家、演出家、俳優、スタッフの共同作業によって生み出された舞台だ。日本だけでなく韓国でも多くの演劇賞を受賞し、新たな1ページが開かれた。しかし、一般の人にはその〈出来事〉が充分には伝わっていないように思う。“韓流ブーム”で韓国への日本人の、とりわけ女性の関心が強まったことは良いことだと思う。しかし、まだそれらは口当たりの良い対象に限られたものだというというのは、私だけの印象だろうか。マイノリティーの問題が愛情を持って注目されてこそ、真の文化交流だと思う。

 今回のフェスティバルの目標として、まず世代やジャンルや国を超えて、多くのひとが集まり、自由に話し合える場所、姜尚中(カン・サンジュン)さんの言葉で言えば「公的空間」を作ることを考えた。世界の多くの国が経済中心になり、人間の無償の関係が希薄になったと言われている今、ハートで触れ合う場としてのフェスティバルを開きたいと思った。

 それを実現させるために考えた企画は、このフェスティバルを演劇だけでなく、音楽、舞踊、詩、小説、絵画などさまざまなジャンルの人が集まる内容にすることで、ジャンルを超えてもう一度、文化というものの命を共に発見し、再確認し合えるのではないかというものだ。幸い、会場となる劇場の『あうるすぽっと』は、ロビーが広いので、劇場とロビーで常に何かが行われているという面白さを考えた。

 劇場での演劇公演5作品に関しては、韓国側が日本の戯曲に挑み、日本側が韓国の戯曲に挑むという今までにない内容だ。この数年、韓国では日本の戯曲が上演されることが多くなり、日本でも韓国戯曲の上演が以前よりも増えている。お互いがどのようにアレンジして上演しているのか、それをぜひ多くの人に観てもらいたいと切に願っている。

 韓国からの2作品は、激動の中で抵抗運動を行った男と女、家族の物語だ。『ブラインドタッチ』も『壁の中の妖精』も韓国で大きな反響を呼んでいる。『壁の中の妖精』は、韓国の設定に変わり、マダンノリという歌、舞、演技による見事な舞台となった。この2作品はぜひ観て欲しい。ロビーでは、韓国戯曲5作品がリーディングされ、また韓国の伝統的な舞踊、音楽、詩の朗読が「在日」の素晴らしいアーティストを中心に繰り広げられる。

 初日の前夜祭では、出演者によるスピーチと、民族工房の舞踊、ミン・ヨンチ&SANTAによるコンサートが行われ、交流会が開かれる。

 私にとってこのフェスティバルの開催は、少し大げさな言い方をすれば、宿命のような気がする。私の生まれが下関の彦島であることで、市内の人間からヒコットランドとからかわれていたのだが、子供の頃の遊び仲間は、「在日」の子供が多く、創氏改名による問題に苦しむ姿を間近に見続けていた。東京に来て演劇を始めてからは、多くの「在日」の演劇人仲間に助けられてきた。

 今回の企画は、その仲間達と相談して推進している。6月30日の最後の日の在日の若手演劇人によるシンポジウムのタイトルを『チャンソリ~これからの日韓』と提案してくれたのは鄭義信さんだ。ユーモアと主張と愛情の入った〈チャンソリ〉を実現したいと切に思う。現在、このフェスティバルの成功のために若手が必死で作業を続けている。「今必要なのは、WILL、つまり意志だよね」、という小説家の言葉を共有し合っている。

 ともかく、まず前夜祭に一人でも多くの方が参加して下さることが全員の願いだ。


■第1回日韓演劇フェスティバル■

日時:6月1~30日
場所:あうるすぽっと
  (東京・豊島区、池袋駅から8分)
料金:1作品一般3500円ほか
電話:03・5909・3074