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2009/08/14

<韓国文化>インドネシアでハングルに脚光

  • インドネシアでハングルに脚光①

    ハングルを使ってチアチア語を学ぶ子どもたち

  • インドネシアでハングルに脚光②

          ハングルで表記された教科書

 ハングルがインドネシア少数民族の公式文字として初めて採用された。朝鮮王朝の第4代国王、世宗が1446年に「訓民正音」の名で公布した科学的な表音文字であるハングルの優秀性が認められたものだ。学会では、これを機にハングルの国際化に弾みがつくのではないかという期待が高まっている。

 韓国の訓民正音学会によると、インドネシア東部のスラウェシ州・ブトン島のバウバウ市は、この地域の土着語であるチアチア語を表記する際の文字としてハングルを採用した。同市は7月21日、チアチア族が多く住むソラオリオ地区の小学生50と高校生140人に、ハングルで表記された教科書「バハサ・チアチア1」を配布し、週4時間の授業を開始した。

 人口6万人のチアチア族は固有の言語を持っているが、それを表記する文字がなく、言語消滅の危機に直面している。地元小学生に配布された教科書には、チアチア族の言語や文化、ブトン島の歴史、社会のほか、韓国の伝統童話なども紹介されている。

 今後、バウバウ市は、道路標識にアルファベットとハングルを併記する計画だ。さらに、ハングルの歴史や民話集などを発行する計画も検討している。9月には「訓民正音文化センター」が建てられ、教員養成や教材のレベルアップを図るとともに、韓国文化の普及も本格化させる。

 チアチア族とハングルとの出会いは、昨年6月、訓民正音学会副会長の全泰鉉(チョン・テヒョン)・韓国外大マレー・インドネシア語通翻訳学科教授が、母語消滅の危機に瀕しているチアチア族の現状を学会関係者らに伝えたことに始まる。チアチア語の発音を分析した同学会は、15世紀に姿を消した文字と発音を復活させて使用することを検討した。また、ハングルの優秀性だけを強調する態度ではなく、現地の人々との意思疎通を重要視し、謙虚な姿勢でアプローチした。

 このような努力が実り、訓民正音学会は昨年7月、バウバウ市とハングル採用に関する了解覚書(MOU)を締結した。同学会会長の金周源(キム・ジュウォン)・ソウル大言語学科教授は、「これまで少数民族にハングルを伝えたことは何度かあったが、地方自治体とMOUを締結した後、教科書を発行し、生徒に教えるのは今回が初めてだ」と語った。MOUにはハングルを媒介として相互の文化交流を図るという内容も盛り込まれた。

 昨年12月、学会の招待で訪韓、ソウル大言語教育院で半年間、韓国語教育を受けた後、学会関係者らと教科書編さん作業を始めたバウバウ市の高校教師アビディンさん(32)は、「ハングルは非常に科学的な文字である」と、ハングルを採用した理由を説明した。

 現在、バウバウ市では15の言語が使われている。このうち「ウォリオ」という言語に表記法があるが、複雑なアラビア文字が使われており、使用する人はほとんどいない。現地住民も「ハングルのほうが簡単で学びやすい」と話している。種族の歴史と伝統を失うことを憂慮していた村の元老も、ハングル教材の発行を歓迎しているという。

 ソラオリオ地区では、小学生には毎週4時間、高校生には毎週8時間、ハングル教材によるチアチア語の授業が行われている。アビディンさんは「生徒らはまだハングルでの読み書きに不慣れだが、母語を表記する文字を持てることに喜びを感じ、学習意欲にあふれている」と語った。

 2007年7月、70人余りの国語学者や言語学者らで発足した訓民正音学会は、これまで中国・黒竜江流域のオロチョン族やタイ・チェンマイのラオ族、ネパールのチェパン族など少数民族にハングルを普及させようとしたが相次ぎ失敗していた。

 言語学的な分析をしないまま、現地の言葉をそのままハングルで表記しようとしたり、現地の人々とのコミュニケーションを欠いたまま、文字だけ普及しようとしたためだ。

 現在、世界には文字を持たない少数民族が6600ほど存在する。ユネスコの支援を受けている国際団体のSIL(夏季言語協会)は、死滅の危機に瀕した種族の言語をアルファベットで表記する「バベル計画」を進めている。キリスト教の宣教師で構成されたこの団体は、1934年の創立以来、中南米やオーストラリア、西南アジアなどに住む2550の少数民族の言葉を研究した実績を持つ。

 言語学界では、「アルファベットよりもハングルが少数民族の言語表記手段になる可能性が高い」と指摘する学者も多い。今後、訓民正音学会は、東南アジアや南太平洋を中心に「ハングル世界化プロジェクト」を本格化させる。これら地域では、ハングルを適用しやすい発音を持つ民族が多いうえ、中央政府の統制も比較的ゆるく、韓流ブームに沸いているという共通点があるため、ハングルの普及が加速化するとの期待が高い。