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2009/08/21

<韓国文化>韓国、在日の"現在"を映し出す

  • 韓国、在日の“現在”を映し出す

    李潤澤構成・演出 『コリア・レッスン』

  • 韓国、在日の“現在”を映し出す②

    金星然作・演出 『TaxiStop』

 韓国と在日の劇団が出演する「競演 東西南北」が、24日から東京・新宿のタイニイアリスで開かれる。韓国を代表する演出家、李潤澤さん、在日演出家、金守珍、金正浩、金哲義さんの作品を、来年1月にかけて上演する特別企画だ。タイニイアリス主宰の中村博子さんに文章を寄せてもらった。

 小劇場タイニイアリスは東京の新宿2丁目仲通りにある。「未知の才能の発見」と「都市間の交流」を目指して1983年にオープンした。

 アジアとの交流は90年。韓国の釜山から李潤澤(イ・ユンテク)さんの劇団コリペと、ソウルから呉秦錫(オ・テソク)さんの劇団木花に来てもらったのが最初だ。小劇場演劇が興ろうとした中国、上海からも来てもらった。

 それから20年目。毎年平均3劇団ずつ招き、日韓合作、日中、日台合作、あるいは日中韓合作したりもしてきた。これまで約50劇団が参加し、交流都市を数えてみたら、釜山12回、ソウル12回で断トツのトップ。光州、全州、春川からも来てもらった。ほかには上海、北京、南京、香港、台北や、シンガポール、ニューデリー、バグダッドなどがある。

 当初のことを思い出すと、現在の交流はまるで夢のようだ。いま100を数える小劇場が林立し、おそらく世界一の演劇の街であろうソウルの賑やかな大学路も、当時は街燈もない真っ暗闇のなかから学生たちのチャンゴや歌声だけが響いていた。当初は迎えるために、勤務証明、納税証明その他の書類をたくさん揃えなければならなかったし、韓国側もパスポートの申請が大変で、さらに好日的と非難されたこともあったと聞く。今から思えば、お互いのあの情熱は一体どこから来たんだろうと呆れるばかりだ。

 ビザに苦労しなくても日韓自由に行き来できるようになった現在、演劇交流でできること、しなければならないことも、おのずと変わってきたと思う。

 一昨年から、「南北競演」とネーミングして、韓国からの劇団と日本の在日劇団との創造競争を始めた。リアリズム台詞劇の伝統根強い韓国でもそれに揺さぶりをかけようとする若い世代が確実に出てきたこと、在日のオリジナル作には、私たちの知らない日本があることなど、「南北競演」のおかげで私はたくさんのことを感じ、知りました。離れた客席から客観的に舞台を見て、ストーリーは何かテーマは何かの頭理解でなく、魅力があれば体から身体へじかに伝わってくる小劇場演劇は正直だ。面白いか面白くないかは頭より先に見ている身体のほうが知ってしまうからある。

 「南北競演」三年目にあたる今年は、「競演東西南北」とネーミングした。西アジアのイラク・バグダッドからも劇団ムスタヒールアリス(しかめッ面のアリス)の「アブ・グレイブ」を招いたからだ。ムスタヒールとは難しいという意味。フセイン政権時代、演劇するのが難しかったからつけた名前だそうだ。言葉なしのボデイ・ランゲージ。西欧のパントマイムなんかよりもっと歴史、伝統があると誇るセノグラフィー(視覚を重んじる演劇)が東アジアの私たちには珍しいと思う。

 この「競演東西南北」のトップを切るのは、いま韓国演出家・三指の一に挙げられる李潤澤の「コリア・レッスン」。教育というものが本質的に持つ暴力性を、韓国の伝統がまだ生きてる身体で演じようという不条理劇。90年から4年、続けて来てもらったのでて、タイニイアリス16年ぶりの再登場になる。80年代に韓国小劇場演劇の扉を開いた演出家がどう変貌したかしないか?興味津々である。

 続いて韓国の若手第3世代。いまソウルで売れっ子の演出家・姜建宅(カン・ゴンテク)の「シンミョリ村のご近所お隣り」と、韓国のパントマイム演劇祭を総なめしてきた金星然の「TaxiStop」を上演する。姜建宅は、韓国ではまだ珍しい女性作家・南貞媛(ナム・ジョンウォン)とのコンビで、幽霊というフィクションによって現代の経済発展を撃とうとし、後者の金星然も、綺麗な女性をめぐって駆け引きするタクシーの「乗客たちから韓国の今」をみつめようとしている。

 金守珍(キム・スジン)演出の新宿梁山泊「トラジ」の作・呉秦錫は韓国国立劇場の現芸術監督。先の李潤澤は前芸術監督だから、国立劇場の前と現、2人の芸術監督の演出と作が両方見られるので、さすが小劇場演劇、オルタナティブ(もう一つの演劇)ならではの「怪挙」と私はひとりで喜んでいる。

 在日劇団アランサムセの「現代朝鮮演劇シリーズ」は、日本の劇場で史上初の上演となる。私の専門は日本の近代劇なので、45年以前の日本の劇作家たちが政府の侵略戦争に、あるいは筆を絶ち、あるいは迎合し、あるいは迎合するとみせかけて何かをしたり、様々な生き方があったことを知っている。文字どおり近くて遠い地の創り手たちが今何を考え何を感じているか、とても楽しみだ。

 大阪の在日若手の筆頭といえる金哲義(キム・チョリ)も済州島の娘に恋する青年を描く「夜にだって月はあるから」で、なぜ自分は今ここ日本で生きていくのかアイデンティティーを探る。若い日本の観客も、そっと自分を見つめなおしてみることが出来るかも知れない。

 いつか国境なんてものがなくなって、好きなときに好きなところに行けたらどんなに素敵だろう。タイニイアリス(Tiny Alice)とは、ちっちゃなアリスという意味。クレージー兎のあとを追って、もんどりうって穴に落っこちたアリスのような不思議体験を!と願っている。


■競演 東西南北■
8月24~26日
 「コリア・レッスン」
8月28~30日
 「Taxi Stop」
料金:一般3800円ほか
電話:03・3354・7307