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2009/12/18

<韓国文化>老農夫婦と老牛の日常描く

  • 老農夫婦と老牛の日常描く①

    300万人動員した『牛の鈴音』 (C)2008 STUDIO NURIMBO

  • 老農夫婦と老牛の日常描く②

    コ・ヨンジェ 70年生まれ。韓国インディペンデント映画界でもっとも期待される若きプロデューサー。

  • 老農夫婦と老牛の日常描く③

    イ・チュンニョル 66年生まれ。テレビ演出家として10年間にわたりドキュメンタリー中心に発表。『牛の鈴音』は初の映画監督作品となる。

 ドキュメンタリー映画『牛の鈴音』が、19日から日本公開される。韓国の農村に暮らす老夫婦と老いた牛を見つめた映画で、韓国では観客動員300万人という大ヒットを記録した作品だ。来日した高永宰(コ・ヨンジェ)プロデューサーと李忠烈(イ・チュンニョル)監督に話を聞いた。

◆静かな生活への共感 高 永幸(プロデューサー)◆

 『牛の鈴音』が観客の心をつかんだのか、その理由を考えると、現代が厳しい競争社会で生きにくいからだと思う。ゆったりと生きることの大切さが観客の共感を得て、映画に癒しを求めたのだろう。それと、あの老夫婦に多くの人たちが、「古き韓国」「私たちの親世代」を見出したことも背景にあると思う。

 無口で頑固、家長的な父親、そういう夫を持って苦労だらけの人生を送った母親、あの老夫婦に自らの両親を重ね合わせたのではないだろうか。

 私の父も牛を使って農作業していたが、機械化が進むと、牛を使わなくなった。あの老夫婦のような牛だけに頼った農作業をしている農家は、いまの韓国にはほとんど見られなくなった。また、あのおじいさんの場合、足が不自由なのと田んぼの地形的な問題で機械が使いにくいこと、牛の扱いにとても慣れていたという事情もあった。

 おじいさんはとても無口で、映画に出演しているという自覚はなかったと思う。その分、おばあさんが積極的に語ってくれた。私たちに愚痴を聞いてもらいたいという心情もあったからだ。二人のキャラクターを際立たせて編集することで、韓国の普遍的な父親像、母親像を見せようと考えた。特におばあさんのキャラクターが、この映画を面白くしてくれた。編集作業には1年6カ月もかかった。

 公開当初は7~10カ所ぐらいの劇場で、2カ月ほど上映できれば大成功と考えていたが、子どもが親にあの映画を見たらと勧める、逆に親が子どもに勧めるという風に、口コミで評判が伝わり、映画を上映したいという各地の劇場からの申し込みが殺到し、300万人動員の大ヒットになった。

 特に30~40代が共感を持ってくれた。みんなでこの映画を観てから同窓会を行ったグループもあったそうだ。

 おじいさんは撮影中、映画に出ているという自覚さえなかったが、その後、「一生に一度は映画に出たいという願いがかなった」と言ってくれた。大ヒットしたことで、老夫婦を訪ねる人が増えたが、二人の静かな生活を乱さないように、観客に何度もお願いをした。

 『ウリハッキョ』という在日の民族学校をテーマにした映画を以前プロデュースしたこともあり、在日の人たちには強い関心を持っている。「祖国」と触れ合うきっかけに、この映画がなってくれればうれしい。


◆韓国の父親にささげる 李 忠烈(映画監督)◆

 忘れかけている親への思いを、多くの人の感性に伝えたいと考えて、この映画をつくった。また韓国では97年の経済危機以後、多くの父親たちが職を失い、人生に絶望していた。献身的に家族を支えてきた父親たち、そんな父親像を描きたいと考えた。父親にささげる映画として取り組んだ。

 私の父親も牛と共に働いて、4人の子供を育ててくれた。とても苦労しながら大学まで出してくれた父親を思い出しながら、この映画を撮影した。機械化が進み、牛を使う農家が無くなっていて、韓国全土を5年かけて探した。私の父親を撮影することも考えたが、すでに牛を飼ってはいなかった。

 そしてあのおじいさんと牛に出会った。おじいさんは耳が遠く、牛自慢の話以外は、ほとんど話さない人だった。また映画の撮影ということがわからず、写真を撮るとしか思っていなかったので、カメラを向けると止まってしまった。最初は半年で撮影を終える予定だったが、牛がなかなか死なず、結局、撮影に3年かかった。苦労したが、それだけのやりがいを見出していた。

 観客には、この映画を観て自らの両親を思い出してくれたらと思っていたが、その願いがかなった。私の父も映画を観てとても喜んでくれた。何よりもうれしかった。


■あらすじ■

 79歳になる農夫のチェじいさんには、30年も共に働いてきた牛がいる。牛の寿命は15年ほどなのに、40年も生きている。今ではだれもが耕作機械を使うのに、おじいさんは牛と働き、牛が食べる草のために、畑に農薬をまくこともしない。そんなおじいさんに長年連れ添ってきたおばあさんは不平不満が尽きない。しかしある日、かかりつけの獣医が「この牛は、今年の冬を越すことはできない」と告げる。