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2009/04/10

<韓国文化>"心のふれあい"を大切に

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    いちかわ・そめごろう 1973年東京生まれ。79年初舞台を踏む。七代目市川染五郎として古典から狂言、新作歌舞伎まで挑戦し、二枚目から女形まで演じる。歌舞伎以外の演劇、映画出演にも意欲的に取り組む。4月23日に著書『瞳に「気品」を、心に「艶」を』が発売される。

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    (c)2009『今度の日曜日に』製作委員会

 韓国から留学してきた女の子と日本人の”ちょっと変わったおじさん”との心のふれあいを描いた映画『今度の日曜日に』が、11日から全国で順次公開される。”おじさん”を演じた主演の市川染五郎さんに話を聞いた。

――人生に失敗したダメ男の役は珍しいが。

 映画は『阿修羅城の瞳』『蝉しぐれ』など時代劇が続いていて、まったく違う役を演じてみたいと思っていたので、ダメ男の役に逆に興味を持ちました。

 今回の映画は、慌ただしい暮らしの中で起きた小さなファンタジーとでもいうべき作品で、さりげない日常生活の中での、人と人とのふれあいを描いています。繊細な感情の変化、常におだやかな主人公の人柄をどのように表現するか、役づくりに苦労しました。また冬の長野はとても寒いので、演技に集中するのが大変でした。

 ――ユンナさんの印象は。

 15歳で日本に来て活動しているとのことですが、とてもしっかりしていますね。自分の感情を素直に出して真正面から撮影に取り組んでいるのが、こちらの刺激にもなりました。かわいさと繊細さを合わせ持っているところが彼女の魅力だと思います。

 僕は松元茂というおじさんの役ですが、ユンナさん演じる留学生ソラとの距離の取り方に苦労しました。外国人だから、若い女性だからと意識することなく、常に一人の人間として相手と接する。その人物像にとても共感しました。

 ユンナさんがクライマックスシーンの撮影が印象に残っていると話していましたが、僕も同じで、あのシーンは二人の関係が決して恋愛っぽく見えてはいけないので難しかったです。

 ――主人公の松元は生き続ける大切さをソラに伝えていくが。

 すべてに自信のない男が、子どもの前ではせめて父親らしく振舞おうとする姿は、僕自身も子を持つ身なので、考えさせられました。どんな困難があっても決して投げ出さない、一歩ずつ進み続ける姿から、「どんなにつらくても自分を見捨てるな」という映画のメッセージが伝わればと願っています。

 ――染五郎さんの韓国への関心は。

 まだ韓国に行ったことはありませんが、芸能を見てもスポーツを見ても、とてもパワフルな人達という印象を持っています。僕は野球ファンですが、先日のワールドベースボールクラシック(WBC)の日韓戦には興奮しました。

 父の松本幸四郎は舞台『ラ・マンチャの男』を1100回演じていますが、韓国版『ラ・マンチャの男』の来日公演を観て、すばらしい役者がいると感心していました。韓日で伝統芸能の交流とか、意見交換が出来れば面白いですね。良きライバルとして発展しあえればと思います。

 ――歌舞伎を背負って立つ立場だが。

 商業ベースの伝統芸能が成り立っているのは世界的にも例がありません。それは誇りでもありプレッシャーでもあります。七代目の市川染五郎を受け継いだ重みを感じながら、自分なりの個性を打ち出していければと思っています。

 歌舞伎は音楽、衣装、舞台美術などすべてを極めた総合芸術です。韓国の方にもぜひ歌舞伎を観てもらって、アジアの伝統芸能を肌で感じてほしい。言葉がわからなくても通じ合えるだろうと思うし、そんな積み重ねから交流が深まるのではないでしょうか。