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2010/06/25

<韓国文化>東アジアの演劇発展を

  • 東アジアの演劇発展を①

                     平田 オリザ 氏

  • 東アジアの演劇発展を②

                   劇団ミチュウ『リア王』

  • 東アジアの演劇発展を③

                    『そんなに驚くな』

 韓国・日本・中国の演劇を紹介する第17回BeSeTo(ベセト)演劇祭が、29日から始まる(7月25日まで)。同演劇祭は、3カ国の芸術家有志が94年に創設。第1回のソウル開催以来、韓国・日本・中国の順に開催されてきた。今回は東京・静岡・鳥取を会場に、全9作品72公演が予定されている。実行委員長の平田オリザさんに話を聞いた。

 ――そもそも「BeSeTo演劇祭」はどういうものか?

 「BeSeTo」とは、Beijing(北京)、Seoul(ソウル)、Tokyo(東京)という各国の首都の頭文字で、特に韓国ではよく使う言い方だ。この演劇祭は、日韓中3カ国共同の演劇祭として韓国の金義卿(キム・ウィギョン)さんが提唱し、日本は鈴木忠志さん(今回『シラノ・ド・ベルジュラック』演出、7月16~18日、新国立劇場中劇場にて上演)が引き受けた。当時まだ日韓中の3カ国の首脳が一堂に会うということさえなかった時代に3カ国の演劇人たちが集まった。

 94年にソウルで第1回が開催され、以後、日本、中国という順番で開催して今年17回目を迎える。私も日本での1回目の開催(第2回)から関わって、2年前から私が日本の委員長で、中国、韓国に行き、今回は日本開催の実行委員長になった。

 ――初回から17回目にかけて状況は変わったか?

 演劇の状況よりも、とくに政治・経済がものすごく変わった。中国の経済が圧倒的に伸びて。いま日韓中合わせると世界のGDPの2割に近づいている。ほぼ米国に匹敵する。そのくらい大きな存在になったということだ。韓国との共同制作は当たり前になったし、私も『その河をこえて、五月』(02年・05年に新国立劇場と韓国で上演/作:キム・ミョンファ、平田オリザ 演出:イ・ビョンフン、平田オリザ)を創った。私の作品は、韓国でも年に何本かは上演してもらっている。17年前にはそういう状況はなかったわけだから、中国でもこれからそういう状況は期待できると思うし、日本の作家・演出家にとってもますます重要になっていくと思う。

 ――韓国の演劇状況はどうか。

 韓国は最も俳優の層が厚いとよくいわれる。演劇科のある大学が45くらいある。人口比も考えると日本の10倍ある。それが韓流ドラマや映画を支えている。

 パク・グニョンさん(今回『そんなに驚くな』演出)が言っていたが、日本のほうが小劇場の歴史がちょっとだけ長いので、韓国の演出家にとって羨ましいのは、日本では年配の俳優が小劇場にたくさんいることだそうだ。韓国は55~56歳が一番上という感じ。お国柄によっていいところと悪いところがある。日本の場合には教育が圧倒的に弱い。

 ――今回、韓国が関わるプログラムの特徴を聞きたい。

 今回は非常に良いプログラムを組むことができたと思う。『リア王』(7月10、11日、新国立劇場中劇場にて上演)の演出家のイ・ビョンフンさんは、私と『その河をこえて、五月』を創った、韓国で最も安定した演出家だと思う。

 それからアゴラ劇場の3演目は、それぞれ中堅の僕と同世代の演出家の作品。『そんなに驚くな』(7月17~19日、こまばアゴラ劇場にて上演)演出のパク・グニョンさんは、普段の作風は私と違って幻想的、また暴力的な作風。私よりひとつ下の63年生まれなので共有しているものも多いし、楽しみだ。『そんなに驚くな』は題名どおり驚く(笑)。青年団の『東京ノート』を日韓中の俳優達で新国立劇場の特設会場でやるのも画期的なことだ。

 ――次の日本開催となる3年後(第20回)に向けてどう変化していくのか。

 同演劇祭を東アジア全体のものとして発展させていきたい、ということが一つ。演劇に限らず、3カ国に限らず、東南アジアも含めて。それから、共同制作を広めていきたい。若い人達に共同でものをつくる機会を経験してもらいたい。17年前にはそんなことはなかなか経験できるものではなかったが、中屋敷法仁さん(日韓中俳優出演『Wannabe』作・演出、6月29日~7月19日、アトリエ春風舎にて上演)が20代で経験できるのは、すごく進歩したということだと思う。

 日韓は民間ベースでの交流はもう相当深まっているので、BeSeToなりの特色を出していかなければいけない。

 ――最後に一言お願いしたい。

 演劇祭というのは、ある一定期間内に集中してフェスティバル・ディレクターの世界観を観るというのが面白いところなので、ぜひこの機会に、9演目全制覇をしてほしい。


■ リ ア 王 ■
日時:7月10~11日
会場:新国立劇場
■そんなに驚くな■
日時:7月17~19日
会場:こまばアゴラ劇場
事務局℡:03・3445・8011
http://www.beseto.org