ここから本文です

2010/10/08

<韓国文化>「鉄」から見える古代韓日交流

  • 「鉄」から見える古代韓日交流①

    鉄鋌副葬状況復元/奈良県大和6号墳(宮内庁書綾部蔵)

  • 「鉄」から見える古代韓日交流②

    素環頭鉄刀・ヤリガンナ・鉄鏃(京都府指定文化財)/京都府三坂神社3号墓(京丹後市教育委員会蔵)

 「鉄とヤマト王権 邪馬台国から百舌鳥(もず)・古市古墳群の時代へ」展が、大阪府南河内郡の大阪府立近つ飛鳥博物館で開催中だ。鉄を基盤としたヤマト王権の成長過程と東アジアとの関係をさぐる特別展である。同博物館の森本徹・総括学芸員に文章を寄せてもらった。

 5世紀代、日本列島最大規模の古墳が集中する百舌鳥・古市古墳群からは、これまでに数千点に及ぶ鉄器が出土している。それらは刀や剣、槍といった武器類や甲冑などの武具類、また斧やヤリガンナ、鋤・鍬先や鎌などの農工具類など、ほぼすべての種類を網羅し、時に数百点もの鉄器をひとつの埋納施設に納める例もある。

 いまだ実態の把握できていない古墳も多く残されていることから、百舌鳥・古市古墳群に本来納められていた鉄器の総量は、想像もおよばない膨大な量であったと推測される。これほどの「鉄」を古墳への副葬という形で消費していることからみて、百舌鳥・古市古墳群の被葬者達―それは言うまでも無くヤマト王権の大王たちであるが―、鉄を重んじ、潤沢な消費を可能とするだけの鉄を保有していたことを疑うことはできない。まさに彼らは日本列島における鉄を支配した大王たちであったのである。

 しかし、古墳時代の鉄を考える上で忘れてはならない視点がある。それは当時の日本列島では鉄の生産がいまだ行なわれていない可能性が高いということである。

 日本列島における鉄生産の開始期については古墳時代でも早い段階に想定する意見もあるが、現実に製鉄遺跡が確認されるのは古墳時代でも後半期をさかのぼらない。すなわち弥生時代以来、古墳時代でも中ごろまでは、鉄器を作る原料は列島内で生産されていないとみなければならない。では大量の鉄器やそれを作る原料はどこからもたらされたのか。その最大の候補地は朝鮮半島東南部地域である。五世紀の古墳から出土する副葬品に「鉄鋌(てってい)」と呼ばれる分銅形をした薄い鉄板がある。奈良県大和6号墳からは、大小の鉄鋌が合計872枚、古市古墳群の大型前方後円墳、墓山古墳の陪冢(ばいちょう、家臣の墓)である野中古墳からは、多量の武器、武具と共に130点を越える鉄鋌が出土している。

 その形状とまとまった出土状況から、このような鉄の板は鉄の道具を作るための地金であり、『日本書紀』にも記載のみられる「鉄鋌(ねりがね)」と目されてきた。同じ形状を持つ鉄鋌は朝鮮半島当南部地域、すなわち加耶や新羅の地域でも多く出土していて、新羅最大の王陵である皇南大塚南墳からは大小あわせて1300枚以上の鉄鋌が出土している。その出土地が朝鮮半島南部地域と、奈良、大阪といった近畿地方中央部の二箇所に集中していることから、鉄鋌は朝鮮半島東南部で生産され、加耶、新羅地域はもとより列島にまでもたらされた鉄の素材と考えられる。実際に鉄器に加工されないまま古墳に納められる鉄鋌に、実用の素材ではなく威信財としての性格をみいだす意見もある。

 しかしそれは、鉄鋌が本来もつ鉄器の素材としての意義を強く反映した結果とみなさなければならない。鉄鋌もまた、ヤマト王権が多量に保有し、古墳に副葬することで消費される鉄の一種であったのである。

 日本列島において鉄器が使われ始めるのは、おおむね弥生時代のはじまりと同じ頃のことと推測される。効率のよい利器として列島に伝わった鉄の道具も、弥生時代における出土資料は九州島北部から山陰、丹後半島を中心とし、朝鮮半島との地理的な関係を反映した分布しか示さない。しかし古墳時代にはいると、鉄製の武器や武具においても、その素材と目される鉄鋌においても、その分布の中心は近畿地方中央部、まさにヤマト王権の本拠地というべき地域に移動する。古墳時代の始まりとともに、朝鮮半島からの鉄の流入量とその到達地が劇的に変化したのである。

 ヤマト王権の成立に、朝鮮半島の鉄が与えた作用は極めておおきく、その独占的な入手と消費こそが王権形成過程の一側面であった。そしてそれは百舌鳥・古市古墳群の時代にピークを迎え、膨大な量の「鉄」が古墳に副葬されるようになる。

 今回の展示では、弥生時代後期から古墳時代にかけての鉄素材と鉄製武器・武具・農工具など、さまざまな鉄にかかわる資料を展示している。なかでも奈良県大和6号墳から出土した鉄の地金である鉄鋌は、複製品と組み合わせて出土状況を再現しており、鉄鋌埋納の様子を実感することができる。


■「鉄とヤマト王権―邪馬台国から 百舌鳥・古市古墳群の時代へ―」

日時:開催中(12月5日まで)
場所:大阪府立近つ飛鳥博物館
料金:一般600円、高大生400円ほか
電話:0721・93・8321