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2011/03/04

<韓国文化>高麗から朝鮮時代の名品一堂に

  • 高麗から朝鮮時代の名品一堂に①

    螺鈿菊唐草文小箱(高麗時代末期―朝鮮時代初め)

  • 高麗から朝鮮時代の名品一堂に②

    白地黒花鯰文枕(北宋―金時代)

  • 高麗から朝鮮時代の名品一堂に③

               楊柳観音図(高麗時代)

 朝鮮・中国美術の名品を紹介する「開館50周年記念名品展3 大和文華館の中国・朝鮮美術」が、奈良の大和文華館で開催中だ。瀧朝子・学芸部部員に同展について文章を寄せてもらった。

 大和文華館は近畿日本鉄道(近鉄)の創立50周年の文化事業の一つとして、近鉄の走る奈良の地に建てられた。2010年10月には開館50周年を迎えたため、約一年の休館を経て、さらに鑑賞しやすい美術館を目指して、展示設備やミュージアムショップを含めて建物の改装が行われた。本展覧会は、リニューアル後に開催された記念名品展の3回目であり、日本の絵画・工芸に続いて中国と朝鮮美術の名品を展示している。

 大和文華館が持つ所蔵品の特徴には、個人コレクターのコレクションを基礎としているのではなく、美術館設立のために作品を蒐集していったという点が挙げられる。日本文化を育んできた中国・朝鮮を含めた東アジアの古美術作品を収集するという目的のもとに、ジャンルや時代、地域においてバランスのとれたコレクションが形成されている。

 作品の蒐集は初代館長となる矢代幸雄(1890~1975年)によって主に開館前に蒐集されており、実業家でありコレクターでもあった原三渓(富太郎)や益田鈍翁(孝)が旧蔵した名品の数々も収蔵されている。本稿ではコレクションの中から数点を選び、さらにこの度、大和文華館では初公開となる新収品を紹介しながら、本展覧会を概観したい。

 朝鮮半島では、仏教が篤く信仰された高麗時代(918~1392年)に楊柳観音(ようりゅうかんのん/水月観音とも称される)を題材とした仏画や大蔵経の制作が行われている。「楊柳観音図」(高麗時代後期)には正面を向く観音菩薩が岩座に腰掛け、善財童子が礼拝する「華厳経」「入法界品」の場面が描かれている。観音の装束や装飾、岩座には彩色とともに金泥が用いられ、周囲の波は水墨によって描き出される緻密な描写がなされている。

 中国南宋時代の絵画の中でも屈指の名品として知られる「雪中帰牧図」(せっちゅうきぼくず/国宝、中国・南宋時代、李迪筆)は大和文華館を代表する作品の一つである。この作品は雪の積もる道を水牛の背にのった人物が進んでいく様子が描かれており、寒々と張り詰めた空気や枯木が墨の微妙な濃淡によって表現されている。益田鈍翁の旧蔵品である。

 中国陶磁では各時代の優品を所蔵するが、特に楽しい気分にさせてくれる一品が「白地黒花鯰文枕」(しろじこっかなまずもんまくら/磁州窯、北宋―金時代)である。陶製の枕に、鉄絵で水草の間を泳ぐ二匹の鯰が大らかな線で描かれている。枕は如意頭形であり、「鯰」と「年」の音通により、「年年如意」の吉祥句をあらわす、おめでたい枕である。北宋時代には各地で窯業が盛んになり、その中でも磁州窯の影響は華北を主として広い範囲に及んでいる。

 以上のような作品を中心として、大和文華館は開館後もコレクションの充実が図られてきた。本展覧会に合わせて、新しく「螺鈿菊唐草文小箱(らでんきくからくさもんこばこ)」が所蔵品に加わった。丸みを帯びた柔らかい形の小箱で、底部を除く全面に菊や牡丹の花唐草文が螺鈿によって施されている愛らしい作品である。波状につながる蔓には真鍮の線が嵌められ、金属と貝の異なる光沢が漆地に映えて、眺める角度によって様々な色合いを見せてくれる。高麗時代から朝鮮王朝時代にかけての過渡的様相を示す貴重な作品である。

 本展覧会では中国・朝鮮の美術作品を一堂に会しているため、宋時代と高麗時代の青磁
の色の違いや絵画作品における表現技法など、地域や時代における造形の相違を比較しながら鑑賞することもできる。

 また、文華苑(庭)では梅花が満開となり、香りの中を散策するのに良い季節となっている。植物を愛でながら美術作品を鑑賞する「自然のなかの美術館」は、開館以来の大和文華館の理念である。大和文華館では植物に美術作品に、様々な楽しみ方をしていただけることを願っている。


■大和文華館の中国・朝鮮美術■

日程:開催中(3月27日まで)
場所:大和文華館
   奈良県奈良市学園南1-11-6
料金:一般600円、高大生400円
電話:0742・45・0544