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2011/04/15

<韓国文化>人がつながる意味を問う

  • 人がつながる意味を問う

    好評を博した『裏屋根裏』

  • 人がつながる意味を問う②

                      坂手 洋二氏

  • 人がつながる意味を問う③

                      尹 相華さん

  • 人がつながる意味を問う④

                      李 周源さん

  • 人がつながる意味を問う⑤

                      洪 明花さん

 劇団「隣光群」の「裏屋根裏」(作・演出=坂手洋二)が、都内でこのほど上演され大好評を博した。「ひきこもり」をテーマに韓国、日本、在日、そしてインドネシアの役者が共演し、韓国語・日本語・インドネシア語が飛び交った異色作だ。坂手洋二さんと俳優らに話を聞いた。


◆「勇気と連帯の感情共有を」 坂手 洋二(燐光群主宰)◆

 ニューヨークのオフブロードウェイの小劇場で、劇場の大きさに見合った演出の芝居を観たのがヒントになった。私たちの劇団のアトリエも小さな場所なので、それに合う動きの少ない芝居を考えた。

 また最近はテクノロジーが発達しているので、舞台の真ん中に屋根裏を浮かび上がらせるような照明と演出も可能になった。小さな舞台だからこそ、クオリティーの高い芝居を作り上げられる可能性があると考えた。

 日本は元々島国で、鎖国を300年以上続けた歴史もある。いわば国全体がひきこもりともいえる状況だった。若者のひきこもりが長年社会問題化しているが、日本社会全体の問題として考えていく必要がある。

 大震災直後の演劇公演だったが、私たち演劇人は、観客と共に、演劇を通してものを感じ、考え、行動していくことが本分だと確信していた。役者たちも語っているように、観客に励まされながら千秋楽を迎えられた。演劇が人を結び付け、また勇気や連帯の感情を共有できることを改めて示せた日々だった。


◆「韓日交流願いながら演じた」 尹 相華(ユン・サンファ、韓国)◆

 韓国で09年6月に燐光群が同作品の韓国語バージョンを上演したとき、オーディションを受けて合格、出演した。ソウル・大学路の小劇場で公演したが、連日盛況で観客動員トップを記録した。韓国でも若者の「ひきこもり」の問題が起きていたので、関心を呼んだと思う。

 東日本大震災が起きたときは本当に驚いた。精神的にも不安定な状況が続いたが、こういう中でどう芝居を作り上げていくのか仲間と話し合った。今回の劇中に、「何かに打ち込む時はすべてを忘れる」という「アンネの日記」のセリフが出てくるシーンがあるが、その気持ちを持って演じるようにした。

 韓国の知人からは、「こんな大変な時だからこそ、韓日交流の演劇を上演する意味があるのではないか」と励まされた。

 今回は多言語が飛び交う舞台だったが、共演者の顔やしぐさで内容を理解しながら演技を行うのが新鮮だった。観客は字幕を見てから内容を理解するので演技への反応が一歩遅れて届くが、それも面白い経験になった。

 そして何よりも、東日本大震災が起きて間もない時期の公演だったにも関わらず、大勢の日本の観客が来てくれて、役者を支えてくれたことが感動的だった。本当に忘れられない公演となった。


◆「多言語舞台は新鮮な経験に」 李 周源(イ・ジュウォン、韓国)◆

 「地震は大変だったが、公演を行うと劇団で決めていたので、集中することだけを心がけた。初日の前に避難経路を何度も確認した時は、本当に余震の心配をしながら公演するのだなと実感した。公演中に地震が起きたらと思うときもあったが、ともかく演技に集中するように心がけた。

 多言語の舞台は最初はとまどったが、稽古を重ねるに連れ新鮮な経験となり、心配よりも面白さが増した。この芝居についても、こういう状況下で上演が実現できたことも感慨深かったし、人と人との関係をどう作り上げるべきか、考えるきっかけになった。


◆「人が助け合う大切さを考えた」 洪 明花(ホン・ミョンファ、在日)

 稽古中、多くのファンからメールで励まされて本当に勇気を得た。多言語の芝居を通して、言葉が通じなくても一生懸命に気持ちを伝えようとする大切さを演じながら感じたし、観客にも伝わってくれたかなと思う。

 文化活動の力、人と接し合い助け合う大切さを、改めて考えさせてくれた芝居であり、観客との触れ合いだった。


■『裏屋根裏』とは

 社会問題となっている「ひきこもり」をテーマに2002年に坂手洋二作・演出で初演された『屋根裏』は大反響を呼び、読売文学賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞。その後、韓国、米国、フランス、オーストラリアなどで翻訳上演された。その話題作を韓国・日本・在日・インドネシアの俳優たちのコラボレーションで、3月下旬にリニューアル上演したのが『裏屋根裏』だ。