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2011/09/23

<韓国文化>朝鮮独自の造形美とは

  • 朝鮮独自の造形美とは①

    鶴文刺繍ポジャギ 19世紀 49×49㌢ 韓国刺繍博物館蔵

  • 朝鮮独自の造形美とは②

    亢羅チョガッオッポ(衣服を包むためのチョガッポ)19~20世紀 73×74㌢ 韓国刺繍博物館蔵

 2011年度高麗美術館特別企画展2「刺繍ポジャギとチョガッポ展 女性たちの糸と針の造形」が、京都市北区の高麗美術館で開かれている。ポジャギはものを包んだりした四角い布で、チョガッポは何枚もの小さい端切れを組み合わせて縫いつなげたポジャギを指す。山本俊介・同館研究員に、同展の魅力について文章を寄せてもらった。

 高麗美術館では9月3日から「刺繍ポジャギとチョガッポ展」を約2カ月にわたり開催中だ(11月6日まで)。3年前に開館20周年の記念特別展として「ポジャギとチョガッポ展」を開催したのに続き2回目となる。

 今回は、韓国刺繍博物館(ソウル市)から珠玉の刺繍ポジャギとチョガッポ50点をお借りして展覧するとともに、高麗美術館所蔵のチョガッポ20点、さらに現代のポジャギ作家の秀作15点を交えての、まさに日韓の文化交流展と言える。

 本展では、色糸で刺繍を施した生命感あふれる「刺繍ポジャギ」と、端切れを丹念に縫い合わせた構成の美しさが際立つ「チョガッポ」にスポットをあてている。それらは女性たちの手仕事による一枚の布にすぎないけれども、あるものは近代のモンドリアンやクレーの抽象絵画のような高い完成度を見せて、清々しい香気さえ湛えており、伝統文化の厚みを感じ取ることができる。

 「ポジャギ」(褓子器)は、ものを包んだり、覆ったりする四角い布。人がものを持ち歩いたり、贈り物をする際、また、ものを保管したり、膳立てした食べ物を覆うなど、生活周辺の場で使用された。日本の「風呂敷(ふろしき)」や「袱紗(ふくさ)」「布巾(ふきん)」に似ている。

 朝鮮王朝時代(1392~1910年)の後期、とくに18世紀頃に盛んとなったポジャギ。「ポ」(褓)は包むことを意味し、「袱」(ポク)とも呼ばれたポジャギは、「福」(ポク)に音が通じることから、幸せを呼ぶとされている。

 ポジャギに使われているのは、主に絹、苧麻、麻、木綿などの素材である。伝統的な「包む」文化の中で育まれた「風呂敷」は、単なる一枚の布だけに非常に軽く、また小さくして持ち運べ、いつでもどこでも使用できる実用面での簡便さから、たいへん重宝なものである。

 「ポジャギ」が朝鮮に発達し広く使われたのは、居住空間がさほど広くなかったことなどから、こうした柔軟な利便性が尊ばれたのであろう。

 近代になるまで手仕事中心の生活の中で、女性たちが使い残しの布切れを節約し、また小さい端切れさえも大切に扱い、一針一針縫いつないで作り出した「ポジャギ」は、布をいとおしむ古人の遺愛の品と言える。

 刺繍ポジャギには、一針一針丹精を込めて、「木」や「花」「鳥」などの文様が施されているが、これらは成長し天に向かって伸び広がる神聖で豊かなイメージとともに、「花」は福を、「実」は多産を象徴し、総じて「幸福」「安楽」祈願の意味が内包されており、生命感が横溢している。また、朝鮮のパッチワークとして知られる「チョガッポ」は、さまざまな端切れを自由に組み合わせて縫いつなぎ、新たな一枚の布が作られる。与えられた余り布を活用するという制約があるにもかかわらず、自由な雰囲気に溢れている。とくに一重仕立てのものは、つないだ縫い代が重なって線となり、さながら丘陵地の棚田の畔道のように見えて、面構成を一層際立たせる。表も裏も画然たるものはなく、また影までも絵になる布はチョガッポならではのものだろう。

 本展では、ポジャギの優品を鑑賞することはもとより、韓国刺繍博物館の許東華館長の講演会(24日)や、また自らもポジャギづくりにチャレンジする「ポジャギづくり講座」、さらには、本場・韓国のポジャギの名品を所蔵する博物館を訪ね、また古美術店で伝統のポジャギを探したり、地元市場で布地を買い求めたりすることができる「韓国・ポジャギの旅」(10月12日~10月15日)など、関連の企画も満載だ。こうした機会にぜひ奥深いポジャギの世界に浸ってみてほしい。


■刺繍ポジャギとチョガッポ展 女性たちの糸と針の造形■

日時:開催中(11月6日まで)
場所:高麗美術館(京都市北区)
料金:一般800円ほか
電話:075・491・1192