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2011/10/14

<韓国文化>火花のように生きた偉大なプリマ

  • 火花のように生きた偉大なプリマ

              激動の時代を生きた舞踊家・崔承喜

 今年は舞踊家・崔承喜の生誕100周年。それを記念して「崔承喜生誕100周年記念  光州市立美術館蔵 河正雄コレクション 伝説の舞姫・崔承喜展」が、18日から29日まで、東京・四谷の韓国文化院で開かれる。光州市立美術館で行われた記念展の巡回展だ。金姫娘・光州市立美術館学芸研究士の「崔承喜、火花のように生き、風のように行く」を紹介する(図録より転載・要約)。

 崔承喜は植民地時代には民族の花、世界的舞踊家として評価されたが、植民地時代と解放、そして民族分断という歴史の渦の中で親日芸術家、北朝鮮へ渡った舞踊家という理念的な軛をつけられ、きちんと評価されていない芸術家である。今回の展示のタイトル「火花のように、風のごとく、舞姫崔承喜」はドラマチックな崔承喜の生涯を比喩したものでもある。すなわち祖国を失った暗黒の時代に火花のような芸術家魂を発揮した偉大な芸術家に対する敬意の表現であると同時に、激動の近現代史の歯車の中を風に吹かれるように翻弄された人生、そして芸術と理念の間を綱渡りする中で、正当な待遇を受けたことのない悲運の芸術家に対する憐憫の意を含んでいる。

 崔承喜は1911年、京城(現ソウル市)にて海州崔氏の両班の家に生まれた。しかし、彼女が淑明女学校の学生の頃に急激に家計が傾き、苦しい生活を送らなければならなかったという。崔承喜は苦しい家庭事情の中にあっても大変優秀な成績を修め、歌や舞踊にも突出した才能を見せた。彼女は中学卒業の頃には既に背が1㍍70センチもあり、大きな目とすっきりとした鼻を持つ容姿はいわゆる西欧型の美人に近かった。

 淑明女学校を首席で卒業し、ソウル師範学校に優秀な成績で入学したが、年齢が足りないということで入学は取り消されることとなった。絶望の中にあった崔承喜であったが、26年3月21日、兄の崔承一に誘われて見に行った、日本の石井漠の舞踊公演に感動し、留学を決心して石井漠を追って東京へと旅立った。「石井漠舞踊研究所」に入った崔承喜はモダンバレエと現代舞踊を習い、27~28年には石井漠の京城公演に参加して、韓国では「朝鮮の花」と呼ばれ熱烈な歓迎を受けた。その後29年に師・石井漠の失明、舞踊団の経済的困難などの理由から、石井漠舞踊団を辞め京城に帰り「崔承喜舞踊研究所」を設立した。研究生と一緒に新作舞踊を完成するなど、意欲的に活動する一方で、31年に安漠と結婚式をあげた。しかし「朝鮮独立陰謀事件」に巻き込まれた夫・安漠の投獄と政治的な圧力、そして封建的な韓国社会での舞踊に対する理解不足などにより、舞踊研究所は経済的困難に陥り、結局33年に再び石井漠の元へと帰ることになる。

 石井漠舞踊研究所に戻った後、崔承喜は韓成俊に韓国の伝統舞踊を習ったが、これが韓国舞踊の魅力を知り、また自身の現代舞踊と韓国伝統舞踊との融合を模索するきっかけとなった。

 天性の美貌と生まれついてのスタイル、西欧の現代舞踊様式に韓国の伝統的要素を加味した斬新な舞踊で観客を魅了した。また、音楽映画「百万人の合唱」と舞踊映画「半島の舞姫」の主人公や各種のモデル活動などをこなし、東洋最高の舞踊家としての富と名声を得る。

 中国で終戦、解放を迎えた崔承喜は、進歩的文学者であった夫・安漠の勧めに従い、1946年に北朝鮮へと渡ることになる。52年に功勲俳優、55年人民俳優、57年最高人民会議代議員になるなど躍進を続け、「崔承喜舞踊研究所」を開設して後進の養成と民族舞踊劇の創作に力を注いだ。しかし、その後は悲惨な末路を辿り、69年8月にその生涯を終える。

 崔承喜自身が「政冶と芸術は分けられなければならない」と言ったように韓国創作舞踊の先駆者として彼女の芸術世界に対する評価が、政治的・理念的な物差しにより歪められてはならないだろう。崔承喜が日本軍の慰問公演という親日的な活動を行ったのは事実である。しかし、植民地統治下という時代の状況の中で、コリアンダンサーの名をもって、世界の舞台を股に掛け、我が民族と祖国に対する誇りとプライド、そして慰安と希望を抱かせてくれたというのもまた事実である。

 崔承喜の業績と芸術世界に対する、研究と再評価は、結局、韓国の現代舞踊の歴史とアイデンティティーを正しく確立することである。また一般の人に植民地時代に世界的な舞踊家として活躍した崔承喜の存在と価値を知らせ、教えることは、すなわち韓国の文化芸術の優れた点を伝え、祖国への自負を高めることでもある。


■伝説の舞姫・崔承喜展■

日時:10月18日~29日
場所:韓国文化院
料金:無料
電話:03・3357・5970

*22日午後3時講演会「さすらいの舞姫-崔承喜の生涯」、25日午後3時映像上映「『世紀の舞姫』と呼ばれた人-崔承喜の波乱の人生-」、同5時30分より韓国舞踊公演「崔承喜の魅力と韓国舞踊」、28日午後4時30分より河正雄・光州市立美術館名誉館長のコレクタートークあり。