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2011/10/21

<韓国文化>インタビュー 新作映画の公開と演劇の韓日上演を控えて

  • インタビュー 新作映画の公開と演劇の韓日上演を控えて①

    イ・ジョンヒャン 1964年生まれ。西江大学仏文科卒。88年韓国映画アカデミー4期修了。98年『美術館の隣の動物園』で長編デビュー。02年長編第2作『おばあちゃんの家』が韓国で大ヒットする。

  • インタビュー 新作映画の公開と演劇の韓日上演を控えて②

    キム・アラ 1956年生まれ。劇団「舞天」主宰・演出家。韓国・中央大学芸術学部演劇映画学科卒。86年『バラの刺青』でデビュー。韓国演劇界を代表する演出家の一人。09年から太田省吾の沈黙劇に挑む。

  • インタビュー 新作映画の公開と演劇の韓日上演を控えて③

    李廷香監督作品『今日』

  • インタビュー 新作映画の公開と演劇の韓日上演を控えて④

    金亜羅演出『砂の駅』

 大ヒットした『おばあちゃんの家』から9年ぶりとなる新作映画『今日』を制作した李廷香監督、演劇を通した韓日交流に取り組み、太田省吾原作『砂の駅』を両国で上演する演出家の金亜羅氏を紹介する。

◆9年ぶりにメガホン取る・犯罪被害者描く『今日』 李廷香(イ・ジョンヒャン、映画監督)◆

 李廷香監督が、人気女優の宋慧教(ソン・ヘギョ)を起用して9年ぶりにメガホンを取ったのが、27日に公開される『今日』だ。

 最愛の婚約者を17歳の少年に殺された放送局勤めの女性ダヘ(宋慧教)は、信仰上の理由でその少年を許す。しかし、その事によって一年後、新たな事件が発生、ダヘを混乱と悲しみに陥れる。同作品は第16回釜山国際映画祭で特別上映され、観客の大きな拍手が寄せられた。

 「前作から空白期間が長かったが、特に不安は感じなかった。05年にシナリオを書き始め、09年に完成した。99年に米国のコロンバイン高校で多くの犠牲者を出した銃乱射事件があった。事件直後、被害者の友人が校内に“私たちはあらゆる事を赦す”というプラカードを出した。それに対し、学友の死体がまた温かいのに赦すという意を表わしてもかまわないのかというコラムが、ある新聞に掲載された。容赦、赦しとは何かについて訴えたかった」

 「朴贊郁(パク・チャヌク)監督の復讐をテーマにした一連の作品、凶悪犯罪や死刑制度をテーマにした映画などが、この間、韓国では作られている。被害者の人権、加害者の人権、被害者遺族、宗教、それらの問題を捉え直してみたかった」

 宋慧教をキャスティングしたことが、大きな話題になった。

 「私がシナリオを脱稿したという話を聞いた彼女の事務所から、連絡がきた。 シナリオを見せたところ、主人公と自分が似ていると話してくれた。ダヘになりきってくれたと思う」

 映画は27日、韓国で一般公開される。日本公開は未定だ。


◆太田省吾原作『砂の駅』韓日で・”生と死”テーマの沈黙劇 金 亜羅(キム・アラ、演出家)◆

 ささやかな限りある生命を生き、人生の駅に出会い、別れ、また旅立っていく人々。劇作家・演出家で2007年に亡くなった太田省吾の沈黙劇『砂の駅』を韓日共同で制作し、今月中旬ソウル、釜山で公演、大好評を博した。22日からソウルの国立ペク・ソンヒ/チャン・ミノ劇場、11月3日から東京の世田谷パブリックシアターで上演する(℡03・3275・0220)。

 「駅シリーズは、演出家に創造的なアイデアを与えてくれる、とても詩的な作品だ。太田省吾さんに初めて出会ったのは91年で、以来20年近く親交を結んできた。彼が追求した現象的、生命的な存在性を表現したいと考えている。『砂の駅』では男女の出会いと別れが繰り返し描かれ、有限的な関係、生きることの意味を描写する、いわば”沈黙の詩”だ」

 金さんの演劇は、一つの主題に対し、各ジャンルのアーティストが複合的に加わり、音楽が主導する「複合ジャンル音楽劇」と呼ばれる舞台。その複合ジャンル音楽劇を土台に、今回、さらに斬新な舞台を生み出した。

 「韓日の演出家、俳優、スタッフが出会うことで作品が新しいものに生まれ変わる。それも複合ジャンル音楽劇の要素だ。今回は”沈黙”という音楽が表現された劇になる。わずかな音楽が流れ、肉体が作り上げた言語のない世界が音楽的、詩的、散文的に表現される。私は大きなアウトラインを与えて、その中で自由に動いてもらう演出をする。韓国の役者が可能性を求めるなら、日本の役者は正確な答えを求める。その差異も生かしながら演出している」

 「演劇は社会とは何か、人間とは何かを追求するものだ。社会を啓蒙する役割を持つ。しかし今回の『砂の駅』ではそういう役割は強調しない。有限な時間を持ち、瞑想する生き物である人間を描く。東日本大震災という大被害があった日本社会に対して私が提供できるものがあるとしたら、”少し休む時間”といえるかもしれない」