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2012/02/24

<韓国文化>朝鮮陶磁、その美の神髄に触れる

  • 朝鮮陶磁、その美の神髄に触れる①

         青花辰砂蓮花文壺 朝鮮時代(18世紀)
         大阪市立東洋陶磁美術館(安宅英一氏寄贈)
         写真は2点とも撮影:三好和義

  • 朝鮮陶磁、その美の神髄に触れる②

    青磁象嵌雲鶴文碗 高麗時代(12世紀)
    大阪市立東洋陶磁美術館(李秉昌博士寄贈)

 「大阪市立東洋陶磁美術館コレクション 悠久の光彩 東洋陶磁の美」展が、東京・六本木のサントリー美術館で開かれている。今年、開館30周年を迎える大阪市立東洋陶磁美術館の収蔵品約4000件から、国宝2件、重要文化財13件のすべてを含む東洋陶磁の名品約140件を紹介した貴重な展示会だ。安河内幸絵・サントリー美術館学芸員に文章を寄せてもらった。

◆朝鮮独自の個性を表現 安河内幸絵(やすこうち・ゆきえ、サントリー美術館学芸員)◆

 本展では、大阪市立東洋陶磁美術館の韓国陶磁コレクションを、第2章において大きく「青磁の青」、「粉青の土色」、「白磁の白」に分類し展示している。

 植物などの灰を媒熔剤に用いる「灰釉」に、色付けとして酸化鉄が少し加わった「青磁釉」を掛けたやきものを青磁と定義している。高温で「還元(=窯の中の酸素が不十分な状態)」焼成すれば青くなり、反対に酸化焼成に近づくほど黄色味を帯びてゆく。このため、青磁には水色から黄緑色まで非常に幅広い色の展開がある。

 「青磁釉」のやきものは、中国に限らず朝鮮半島にもあった。中国の越窯や汝窯などの影響を受けつつ誕生、展開した高麗青磁である。宣和5年(1123)に、宋の使節に随行して高麗の都・開城をおとずれた徐兢は『宣和奉使高麗図経』に高麗青磁の色を「翡色(=ヒスイまたはカワセミの羽の色)」と記し、絶賛したという。高麗青磁の釉色の美しさは宋時代の中国の青磁をもしのぎ、当代一流と評価されていた。

 その後、控えめな線刻文様を施す高麗青磁が出現すると同時に、精巧な象嵌技法による白と黒の文様装飾を特色とした「象嵌青磁」が、中国の青磁とは決定的に異なる高麗青磁独特の個性を表現するようになっていった。

 「白」に迫ろうとする過程で創始されたやきものがある。韓国の宮廷陶磁の主流は、高麗青磁の青色から、朝鮮時代になると白磁の白色へと移行した。青磁から白磁への移行期である14世紀末から16世紀に、白磁に準ずる用途で作られた「白化粧」を用いる陶器の一群がある。

 灰褐色の素地に、びっしりと印花(=スタンプ文)を施した後、白化粧し、象嵌文様とする。あるいは、白化粧を施した後に線刻や掻き落としや、筆で描くなどして施文する。さらには器全体にシンプルに白化粧した「粉引」のような例も含まれる。これらを「粉青(粉青沙器)」と総称する。粉青がさかんに焼造された期間は比較的短い。しかしながら韓国陶磁史において粉青ほど強く独創性を発揮し、多様な表現を生んだ技法はないのである。

 白色の素地に、高温で還元焼成してほぼ無色透明になる釉薬をかけた磁器を白磁という。中国における白磁の発祥は北斉時代~隋時代(6世紀後半)と考えられているが、韓国においても、白磁の器は高麗時代より作られていた。

 高麗青磁とほぼ同時期に発生したと考えられる高麗白磁は、釉薬の表面に微細な貫入が入りやすい軟質白磁である。出土陶片からは比較的まとまった生産量が推測されるにもかかわらず、高麗白磁の完形の伝世品は少ないと言われる。

 一方、朝鮮時代になって作られ始めた白磁は、硬質白磁である。朝鮮時代のやきものが白磁を志向したことには意味がある。中国・景徳鎮窯製の白磁を理想に、14世紀末から作られ始めた朝鮮白磁は、朝鮮王朝の王族専用の高貴な白としてスタートし、徐々に民間にも広まったのである。白はまた儒教国家の精神性を象徴する特別な色だったとも言われる。15世紀後半には現在の京畿道広州市に官窯が築かれ、朝鮮王族のための「御器」の生産を管理した。16世紀前半の白磁は内側から輝くような雪白色と、緊張感のある整った器形を特徴とする。一方、17世紀末から18世紀の白磁は、大らかな造形とあたたかい乳白色の調和が見所となる。

 朝鮮時代においては、中国や日本で作られたような多色を用いる五彩(色絵)磁器とは異なる色彩装飾の方向性を追求し、「青花(=素地に酸化コバルトで描き透明釉をかける)」、「鉄砂(=素地に鉄絵具で描き透明釉をかける)」、「辰砂(=素地に酸化銅で描き透明釉をかける)」のうつわが成熟した。

 大阪市立東洋陶磁美術館のコレクションは、色別に見ても、その色のやきものの中で最盛期に作られた、その中でもさらに最高品質に属する作品が勢揃いしたコレクションである。ぜひ展示室で作品の魅力を直接ご堪能いただきたい。


■「東洋陶磁の美」展■
日時:開催中(4月1日まで)
場所:サントリー美術館
料金:一般1300円、大高生1000円
電話:03・3479・8600
HP:http://suntory.jp/sma/