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2012/03/09

<韓国文化>前衛演劇の創造的交流

  • 前衛演劇の創造的交流

    「日韓アートリレー2010」より

 韓日の前衛劇団によるコラボレーション企画「日韓アートリレー2012」が、14日から20日まで、東京・荒川のd―倉庫で開催される。実験的な試みに焦点を当てて、独創性に富んだ芸術創造を目指す意欲的な交流だ。同企画を担当する劇団「OM-2」の平澤晴花さんに文章を寄せてもらった。

 「日韓アートリレー」は、韓国の劇場「シアターゼロ」と日本の劇場「die pratze」とが05年から共同で開催しているアートフェスティバルである。92年に「北東京[実験]演劇祭92」の芸術監督であったdie pratzeの真壁茂夫氏が、シアターゼロの代表であり、また韓国の著名なパフォーマーでもあるシム・チョルジョン氏を招聘したことをきっかけに、両劇場の交流が始まった。

 当初は双方が日韓のダンサーや劇団を紹介し招聘し合うことを繰り返していたが、やがてそれが一つのフェスティバルとして形をなし「日韓アートリレー」が生まれた。今回で6回目となる。4回目まではソウルの劇場で開催され、2010年の5回目は東京の劇場で行われた。

 同日・同会場で両国の公演を並べて行ったり、複数の参加団体による異ジャンル、異国籍のコラボレーション作品を創作し上演するなど、日本と韓国の芸術家たちが現場で直接に創造的交流を持つ「場」としても機能するようになった。

 またここで出会った両国のアーティストが、後に作品を発表したり、相互の国で公演を行ったりなど、フェスティバルをきっかけとした交流の輪が広がっている。

 多国間の国際交流を図る時に、フェスティバルに参加する団体の国籍や地域性、芸術のジャンルの違いを際立たせ、その差異にお互いの文化的価値を見出そうとすることが一般的だ。しかし、私たちはそういうスタンスはとっていない。

 実際、フェスティバルを開催するにあたっては通訳を介さなければならないなど、文字通りの意味で対話が難しいと思うことはある。しかし、何かの枠(国籍や属する集団)を離れた「個」と「個」として作品を通じて対話を始めることが重要なのではないだろうか。身体を使った芸術家は、国境や国籍を超えた「人間」のいま現在の姿について、ひたむきに「対話し続けることそのもの」を舞台上で、もしくは舞台の外でも取り組まなくては始まらないのではないかと思う。それを可能にし、また継続する場がこのアートフェスティバルだ。

 今回の「日韓アートリレー」は、日韓の前衛劇団「OM-2」(日本)と、「劇団チャンパ」(韓国)の共同企画で公演を行う。演出の真壁茂夫氏と蔡昇勲(チェ・スンフン)氏は、ともにヨーロッパなどで公演を行い、数々の賞などを受賞している。

 企画立案は、以前から交流のあった両劇団が、「演出家を交換して異国の俳優達と作品を創ったら、何ができるかは分からないが面白いのではないか。そこに、もしかしたら新しい芸術(演劇)のあり方が見えてくる可能性があるのではないか」というアイデアに基づいている。

 蔡氏は巨大な物質文明、貧富の差、宗教間の極限的対立など社会に起こる悲劇性に満ちた死に向かわせる問題の中から、人種や国家を超えた個人の中にこそ闘うべきもの、「希望」を見出そうとする実験を日本人俳優と共に行おうとしている。

 真壁氏は、あらゆるものが資本を中心とした流れにそっている現代において、その流れに抗い続けそれを排除していく中で、人間本来のありようを探求しようとしている。あるべき人間の身体とはどういうものなのか。抗う作業を試み続けていても、資本の流れという「一方向」に向かってしまう人間の闘いを、韓国人俳優と行っていく。

 この共同制作は単なる日本と韓国の演劇の交流ではなく、演出家や俳優が国や文化、劇団などの枠から切り離れて、ひとりの人間と人間とが深層で向き合おうとするものだ。今回の試みによってどんな作品が、どんな表現が生まれるか見届けたいと思っている。そして新しい舞台芸術の在り方を模索し、世界に発信する契機となれたらと思っている。


■日韓アートリレー■

蔡昇勲演出×日本人俳優「希望」
*14日、15日午後7時30分
真壁茂夫演出×韓国人俳優「一方向」
*19日、20日午後7時30分
会場:日暮里d-倉庫
電話:03・3235・7990
HP:http://www.om-2.net