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2012/06/15

<韓国文化>朝鮮時代伝統芸能・才人廳舞踊の再評価を

  • 朝鮮時代伝統芸能・才人廳舞踊の再評価を①

    ユ・ミラ ソウル出身。ソウル国楽芸術高等学校舞踊科、全州又石大学校舞踊学科卒業後、ソウル芸術団等でプロの舞踊家として活動。2001年渡日し07年2月横浜にスタジオ開設。

  • 朝鮮時代伝統芸能・才人廳舞踊の再評価を②

                  伝統舞踊を舞う柳 美羅氏

  • 朝鮮時代伝統芸能・才人廳舞踊の再評価を③

                  才人廳舞踊の鄭 珠美氏

 韓日有志で作る市民団体・国際芸術交流『海の道』が、朝鮮時代の伝統芸能「才人廳」を日本で紹介する韓日文化交流行事を7月、都内で開催する。舞踊家で同団体代表の柳美羅さんに文章を寄せてもらった。

 国際芸術交流「海の道」は、2011年1月に日本と韓国をはじめとする国際芸術交流を支援する非営利団体として発足した。

 韓国と日本をはじめアジア・ユーラシア諸国の人々は、太古の昔から海を越え文化芸術を運んでさかんに交流しており、それぞれの国独特の文化が花開いても、深いところではどこかでつながり合っている。「海の道」という名前は、古くからあるこのような大切なつながりを見つめ、海の上に道をつくりたいと名付けた。基金もスポンサーもなく少人数で始めているので、できることは限られているが、形式的ではなく心を通わすことのできる芸術交流をしたいと考えている。

 「海の道」が7月16日の海の日に韓昌祐・哲文化財団の助成を得て紹介するのは、韓国の才人廳舞踊である。才人廳とは朝鮮時代後期に京畿道華城に存在した巫子と巫楽演奏者、芸人を統括する組織で、その末裔の李東安先生(1906~95)によって伝えられたのが才人廳舞踊だ。韓国でも上演されることが少ない貴重な伝統舞踊で、日本で本格的に公演されるのは戦後初めてになる。

 現代の韓国舞踊は、国家の無形文化財に指定された舞踊が主流になっているが、朝鮮時代からの時代の変わり目には他にも数多くの名人がいた。現代では文化財に指定されないと生計を立てるのが難しく後継者も集まらないので、内容が優れていても時代の波の中に消えていった芸能はたくさんあったと思われる。李東安先生は、その歌舞楽全般にわたる芸能の多彩さと水準の高さで生前から知られており、伝統演戯の「足仮面」では無形文化財の指定を受けたが、先生自身が一番重視していた舞踊では無形文化財の指定を受けることができなかった。根っからの芸人気質で、後継者を育てて流派を形成するのは苦手な方だったので、晩年はとても寂しい生活を送られたという。今回お招きする鄭珠美先生は李東安先生の晩年の弟子で、才人廰舞踊を何とか後世に残そうと尽力されている。

 朝鮮時代の芸人の気質を受け継いだ李東安先生が伝えた舞踊であるため、才人廳舞踊は近代的な舞台向けにアレンジされる前の素朴な庶民の踊りの姿をよく伝えている。シンプルな動作で構成され、踊りの良し悪しは身体的な技巧を見せつけるのではなく、チャンダン(リズム)と合った呼吸をいかにうまく捉え、表現するかで決まる。現在、文化財に指定されていない伝統芸能が生き残るのは大変困難なのだが、海外で評価されることでブームとなったサムルノリのように、この日本公演が才人廳舞踊を見直す一つのきっかけになればと思う。今回の公演は、いにしえの芸能の形をよく伝えている才人廳舞踊が、中世以来ほとんど変わっていない日本の伝統芸能の舞台で日本の伝統音楽と交流すれば、日韓の文化の深いところでのつながりが見えてくるのではないかと思い、能舞台で行う。

 「海の道」は、このような日本と韓国をはじめとするアジアの伝統芸能の交流を今後もおこなっていきたいと考えている。日本における海外の伝統芸能の公演は、どうしても無形文化財に指定されているような大家の先生を呼ぶことになりがちだが、「海の道」は日本であまり紹介されていないけれども実力のある舞踊家や演奏家を積極的に招いて、実のある芸術交流を行っていきたいと考えている。

 また、韓流ドラマによって日本の人々の間にも韓国文化に対する興味が高まっているが、アマチュア対象のワークショップや交流イベントを通じて、韓国の伝統芸能に親しんでもらい、等身大の日韓相互理解の一助になりたいと考えている。


■海が伝える古の記憶~韓国才人廳舞踊と日本伝統芸能の響演~
日時:7月16日午後2時半
会場:銕仙会能楽研修所
料金:前売 4000円、当日5000円
電話:080・3421・0877
HP:http://padakir.jpn.org/