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2012/09/07

<韓国文化>飾ることへのこだわり

  • 飾ることへのこだわり①

    緑圓衫(20世紀、長さ143㌢)宮廷の重要儀式で王妃たちが着用した宮中大礼服

  • 飾ることへのこだわり②

    「七宝単作ノリゲ㊧と胡蝶単作ノリゲ」ノリゲとは女性がチョゴリの胸の結び目やチマ(スカート)の腰に付ける装身具

 朝鮮時代の美術工芸品を紹介する特別展「朝鮮王朝の意匠と装身具」(高麗美術館と徳成女子大学校博物館の共催)が9月8日から11月11日まで、京都市北区の高麗美術館で開催される。李須恵・同館研究員に文章を寄せてもらった。

◆女性を象徴する装身具ノリゲ 李須恵(高麗美術館研究員)◆

 朝鮮時代の「装身具」は実に多岐にわたり、形と色、意匠(文様・デザイン)はさまざまだ。高麗美術館では、女性が身につけたノリゲ(胸飾り)や粧刀(刀と箸を収める携帯品)等を所蔵しており、今回は徳成女子大学校博物館から「女性生活史」をいまに伝える貴重な装身具の数々と、それらをどのように使ったのかをより詳しく知っていただけるよう、宮廷の男女が着用した衣服、調度品等をあわせて公開する。

 「煌びやかな装飾」をキーワードに朝鮮の歴史を遡ると、はじめに想起されるのは黄金の国、新羅の古墳出土品だ。古都・慶州には巨大な古墳群が存在し、雅な技巧を誇る装身具が数多く出土している。冠や指輪、腕輪、首飾り、耳飾り、腰帯などは金銀製が多く、高句麗や百済、伽耶の領域でも王族が身につけた装身具類が出土している。

 14世紀末期に朝鮮王朝が李成桂によって成立されると、国は朱子学(儒教)を基盤にあらゆる制度を改正した。服飾もその時勢を受けて見直され、およそ500年にわたり、変遷を遂げていく。男女の宮廷服飾、そして文武百官の衣服が定められるなか、男性は冠帽・帯・胸背(ヒュンベ)、女性は簪・指輪・ノリゲ等の装身具が普及し、また靴(鞋)も重要な装身具の一つとして、衣服に見合ったものが履かれた。

 朝鮮時代の男性が着用した冠帽は、身分や職種によってさまざまだ。一般男性は普段、網巾(マンゴン)を額に巻き、外出時は馬の髭や尾で作られた黒笠を被ることが礼儀とされた。また貫子(クァンジャ、紐を掛ける釦)やカックン(纓、石や竹で作られる)などが笠を飾り、身分と気概を表す大切な装身具とされた。

 官服には腰帯と胸背が必ず付随した。特に、朝服(慶祝儀礼時の正装)の場合、腰には雲鶴や瑞祥文が刺繍された「後綬(フス)」を着用した。これは常服につけられる鶴や虎文の「胸背」と同じく、官僚であることを証明する重要な装身具の一つで、後綬の上部には二つの環が取り付けられた。

 朝鮮時代後期の画家、申潤福(シン・ユンボク)の「美人図」は当時の女性の姿を象徴している。大きく結った黒髪、華奢で優雅な美しさを強調するチマチョゴリ、その胸元には三つの玉を連ねるノリゲが描かれている。

 簡素なチマチョゴリだが、ノリゲはこの女性の品位と可愛らしさを伝えている。ノリゲは手のひらサイズの琥珀や瑪瑙、珊瑚などをつけたものがもっとも高級とされ、母から娘へ代々受け継がれた。

 一般的には銀を用いた「単作ノリゲ」が多く、さまざまな動植物を模したもののほか、珍しい虎の爪や玉石を嵌めたものがある。女性たちが日常必要とする針や刀、香、韓方薬などを携帯する役割を担うノリゲは、装飾性と実用性を兼ね揃えた装身具といえる。

 時代を問わず髪の結い方は女性にとって重要だが、朝鮮時代の女性は髪を飾る装身具にもこだわった。簪(ピニョ)は特に既婚女性が多用し、その大きさと装飾は申潤福の絵に登場するようなクンモリ(大きな頭という意)に適し、装飾性の強いものだ。

 女性たちの簪へのこだわりは加髢(カチェ、現在のウィッグ)の流行によって豪華さを増し、一時は禁止令が出されたほどだった。その後はまとめ髪が主流となり、これに伴って簪もより多様化していく。

 「唐只(テンギ)」は、結いまとめた髪の後につけるリボンで、若い女性は赤、中年層は紫、未亡人は黒、喪主は白と使い分けられた。箔や玉、琺瑯(エナメル)で装飾されたテンギを髪につける女性たちはさぞや美しかったことだろう。

 統治理念として崇められた「朝鮮朱子学」は服飾制度をも定め、日常生活の根底を築いたが、朝鮮時代の人々は厳しいしきたりの中にありながらも豊富な自然素材を存分に活かした装身具をもって身と心を華やかにし、志操を表した。

 韓国の時代劇などでは色鮮やかなチマチョゴリを来た女性が描かれるが、かつて庶民は基本的に麻布や木綿をまとい、身分や四季に応じて布地を替えた。また装身具もそうした変化に準じて材質や色合いを異にし、これらを身につけることは、すなわち社会生活を営む上での支柱になったといえる。

 特別展「朝鮮王朝の意匠と装身具」は男女の装身具をまとめて紹介する初めての試みであり、螺鈿や華角技法による調度品、デザイン性が光る陶磁器や刺繍・絵画をあわせて公開する。今回の展覧を通し、朝鮮時代の意匠と装身具に息づく感性、技をお伝えできればと思っている。

■朝鮮王朝の意匠と装身具■
日程:9月8日~11月11日
場所:高麗美術館(京都市北区)
料金:一般800円、大高生500円
電話:075・491・1192
 *10月13日午前10時と午後2時の2回、ワークショップ「朝鮮伝統組み紐『メドゥプ』のチョーカー作り」あり