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2012/11/02

<韓国文化>韓・日・在日 演劇の創造競争を

  • 韓・日・在日 演劇の創造競争を①

    在日劇団「Unit航路」は『韓紅の音』を来年2月上演

  • 韓・日・在日 演劇の創造競争を②

    劇団態変は「天にもぐり地にのぼる」を12月に上演する

 韓国、日本、在日の劇団が出演するアリスフェスティバル2012「競演 東西南北」が、東京・新宿のタイニイアリスで開催中だ(来年3月31日まで)。タイニイアリス主宰の西村博子さんに、同演劇祭の意義について文章を寄せてもらった。

◆交流深め真の友情を 西村 博子さん(タイニイアリス主宰)◆

 毎年恒例の演劇祭「アリスフェスティバル」が今年も始まった。最初が北京、次が被災地仙台からの来演であったように他都市との交流公演が多く、まとめて「競演東西南北」と呼んでいる。

 なかでも多い日韓交流をあげると、まずトップを切るのはモズ企画の「韓国新人劇作家シリーズ第一弾」(4日まで上演中)。モズ企画は、秋になると朝鮮半島と日本列島を行き来する百舌鳥にちなんだ名で、釜山日報、ソウル新聞の新人戯曲賞を受賞した若手作家たちの新鮮ほやほや短編3本を、同日連続公演する。

 ジョン・ソジョン作「秋雨」は都会の片隅で貧しさから起こる惨劇とそんなことに全く無関心な市民を、オ・セヒョク作「パパのパパごっこ」は解雇された父親たちの、それを家族に悟られないための必死のレッスンを、イ・ナニョン作「一級品人間」は息子に優秀な脳を移植したいばかりに自分の臓器を売る親たちを、あるいは詩情豊かに、あるいは笑いに満ちて描く。若者の目から見た韓国の今!にちがいない。

 演出はそれぞれ、金世一、荒川貴代、鈴木アツトだが、そのうちの金世一演出「秋雨」はすでに釜山カマコル小劇場とミリャン演劇祭で公演し、好評のため来年、ソウルのゲリラ劇場でも公演することになっている。

 次いで激団リジョロの「クラウド・エンド・オルタナティブ」(12月13~17日)。かつて車で死亡事故を起こし、刑期を終えて出所した在日の男が主人公。深夜の高速バス乗り場に被害者の息子が現れ、いかに生きるかを賭けて男と男が激突する。JINが作・演出だけでなく出演もするのだが、その激しい、暴力的ともいえる体表現が見ものである。

 大阪から来演するのは劇団態変の「天にもぐり地にのぼる」(12月27~30日)。劇団名から容易に推察されるように作・演出・出演の金滿里は重度身体障害。その身体を生かし、「パンドラの匣」から「九寨溝の龍」へ5つのシーンを経て小蛇から龍へと変身していく。

 タイニイアリスでの態変公演というと必ず応援される舞踏家の大野慶人氏が、6年ぶりの今回の態変東京公演も監修。人間の身体の不条理、その面白さが存分に味わえるにちがいない。

 そして来春、日韓交流の2作品が上演される。

 最初は、Unit航路(ハンロ)と南山ノリマダンの同日競演(2月22~24日)。Unit航路は大阪の劇団Mayの座長・金哲義とタルオルムの座長・金民樹の二人が劇団とはまた別に結成したユニット。金哲義作・演出の「韓紅(からくれない)の音」を、劇団アランサムセの助演も得て上演する。

 南山ノリマダンは、チョン。スンチョン構成・演出のサムルノリ、民謡、ムンドゥンイの舞、テドンノリなど。

 マダンとはそもそも庭の意。広い野外で踊るのが本来だし、その上南山ノリマダンは日韓ワールドカップや朝鮮通信使韓日交流展の開幕を飾ったり、ニューヨークを初め世界各地で活躍している有名な芸能集団なので、この東京一、いやおそらくは日本一小さいタイニイ(=ちっちゃな)アリスで、いったいどうやって踊るのか。一方でドキドキ、一方で、民衆本来の知恵と魅力を発揮してくれるに違いないと期待満々である。

 最後は演劇集団反(バン)。朴章烈作・演出の「シンバル(靴)」、2度目のタイニイアリス登場である(3月22~24日)。朴章烈氏は百万ウォン演劇祭の創立者で、ソウル演劇協会会長。が、そういう社会的地位とは別に、創る人としてはナイーブでロマンテイックで、かつ、決して歴史を忘れない韓国でも貴重な存在と言えよう。

 今度の「シンバル(靴)」も大きな工業団地、自殺の名所でもある霧江里を舞台に、靴紐製造業の男と、自殺する女、夜な夜な拾った靴と話す女が描かれていき、その両親たちの訪れによって自ずと過去の歴史は浮かび上がってくる。

 「アリスフェスティバル」「競演東西南北」と言っても、別に韓国や在日の演劇を“紹介”するのが目的なく、韓国や在日の演劇と東京の演劇と、お互いどっちが面白いか魅力的かの創造競争。それこそが本当の交流であり、真の友情も生まれてくると私は信じている。

 劇団E・G・WORLDの金堂修一作・演出「シはしあわせよ」(11月16~18日)。机上風景の古川大輔作・演出「このまちのかたち」(12月20~23日)。発条ロールシアターの則末チエ脚本・演出「ソンデネヴァ!」(3月28~31日)、東京在住の劇団も張り切っている。机上風景の「このまちのかたち」は今年10月、大邱広域市の演劇祭に招かれ、他の作品も大好評を得て帰国してきたばかりである。ぜひ応援してほしい。