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2013/02/01

<韓国文化>朝鮮時代・詩と書と画、一体の美

  • 朝鮮時代・誌と書と画、一体の美①

            山水図(権敦仁画、金正喜画筆、19世紀前半)

  • 朝鮮時代・誌と書と画、一体の美②

                    漁村落照図(部分)

 「書画と白磁、そして民画の世界―朝鮮時代の絵画と陶磁」展が、2日から京都市の高麗美術館で開催される。同館コレクションの中から「書聖」とうたわれた金正喜(1786~1856)の「山水図」、朝鮮時代の簡潔な筆による「竹図」「朝鮮白磁」など朝鮮時代の多様な美に出会う展覧会である。山本俊介・同館研究員に文章を寄せてもらった。

◆「聖書」金正喜の作品も 山本 俊介(高麗美術館研究員)◆

 同展では、高麗美術館創設者・鄭詔文氏(1918~89)のコレクションの中から、「書聖」とうたわれた朝鮮時代後期の実学者で書芸家の金正喜(号・秋史、阮堂。1786~1856)の「山水図」をはじめ、朝鮮時代(1392~1910)の簡素な筆による「竹図」や「鷺図」などの絵画を拠り所に、余白を生かした書画に士大夫(サデブ)の恬淡とした心の境地を読み解く。

 詩と書と画が一体となった気韻生動する美が尊ばれた東アジア圏において、特に朝鮮では儒教精神に基づく清廉さが住まいする伝統の家屋の中にも息づいている。また、生活周辺では朝鮮白磁の「白」が微かな光の揺らぎによって、素白、乳白、青白、灰白など自在に変化する様々な「白」の世界を現出する。

 さらには、正統な絵画技法とは無縁で独自な視点から描かれた冊架図や文字図、魚楽図など「民画」の奔放で不可思議な表現世界にも触れて、豊かなイマジネ―ションがあふれる朝鮮時代の多様な美の世界を紹介する。

 ここでは、朝鮮時代の士大夫画家(後述)による絵画と、陶磁の中でも朝鮮白磁について取り上げる。高麗王朝から朝鮮王朝に変わり、国家の指導理念が仏教から儒教となり、そうした時代精神を反映して絵画や陶磁の様相も大きく変化した。

 絵画は、初期には新たに興った中国明朝の画風に、そして後期には清朝画壇の影響を受けながら発展していった。先の高麗時代から宋や元の影響によって隆盛し始めた水墨画が士大夫によって愛好され、また儒林の士人たちは教養の一端として余技で作画を愉しむようになった。

 それらの作品は中国の古典に依拠しながらも、文人たちが理想とする心の境地を詩と書と画の合一により描き出しているように思える。

 「士大夫」は、もとは中国で科挙試験に合格した官僚などの上流階級を指し、また官僚から下野し郷里で勉学を重ねる人も高雅な趣味に勤しんだり、余技として絵画を描き、それらは職業画家とは一線を画すもので、文人画・士大夫画と呼ばれた。「ソンビ」は、学識に優れ、志操正しく礼節を守り、儒教理念を具現した階層の人。決して富裕や栄華を貪らず、高潔端正を旨とした。「両班(ヤンバン)」は、高麗時代、中国の唐・宋の官僚制度を参考に、文臣(文班)と武臣(武班)の二班からなる官僚制度を採用。この二つを合わせて両班と呼び、難関の科挙試験に合格した政治家や優れた儒学者を輩出した名家なども両班と呼ばれた。

 士大夫画では、水墨による山水や、気品があり高潔な「四君子」(蘭、菊、梅、竹)、そして類似の画題として「歳寒三友」(松、竹、梅)が独自の風趣で描き出された。

 一方、朝鮮時代の陶磁は、前代の高麗の象嵌青磁の作風が変質した粉青沙器が初期には盛んに作られたが、17世紀以後は面目を一新して白い地肌の白磁が隆盛を極めた。その「白」は、清廉・端正な美を愛する人々に、ものの内から滲み出してくる慎み深い味わいを醸し出したといえる。

 朝鮮時代の絵画の中には、正統な絵画技法からは程遠い自由で独自な絵画表現による作品群がある。人々の日常生活において実用に供されたもので、当時は美術品として鑑賞するというものではなかった。しかし、それらの作品に驚嘆させられた民藝運動の祖・柳宗悦(1889~1961)は「民衆から生れ、民衆の為に描かれ、民衆によって購われる絵画」として、それらを「民画」と呼び、高く評価した。

 民画が生まれた背景や、その役割・用途を見ると、儒教が時代精神の基軸にあり、人の誕生、成長、結婚、還暦などの儀礼を祝す装飾に「屏風」が多く活用され、その場の雰囲気を盛り上げた。そうして、伝統家屋の中で部屋を飾る屏風仕立てにする八枚ものの絵が多く描かれた。儒教倫理を表現するものとしては、孝、悌、忠、信、礼、義、廉、恥の八文字をデフォルメした「孝悌図」が、文字図の代表的なものである。

 これら数々の民画を描いたのは、ほとんどが一流ではない名もない絵師で、また各地を渡り歩く絵師たちも家々の依頼に応じて、繰り返し同じようなテーマのものを制作したのかもしれない。

 いずれにしても、人々は長寿や多福を願い、健やかに暮らせることを希求し、太陽や山、川、松、鶴、亀など、永遠・不動・不尽・長寿にまつわる十のイメージが象徴的に描かれた「十長生図」などを身近に感じて生活を豊かなものにしてきたのだろう。


日程:2月2日~3月31日
場所:高麗美術館(京都市)
料金:一般500円ほか
電話:075・491・1192
 *2月9日(土)午後1時30分と3月17日(日)午後1時30分より小倉紀蔵・京都大学院教授の講演会「朝鮮時代の哲学・美学」についてあり。要事前申込。