ここから本文です

2013/04/26

<韓国文化>両国の演劇交流深化を

  • 両国の演劇交流深化を①

    なかやしき・のりひと 1984年青森県生まれ。脚本家、俳優。劇団「柿喰う客」代表。桜美林大学文学部総合文化学科演劇コース卒業。ゴーチ・ブラザーズ所属。青山学院大学在学中に「柿喰う客」を旗揚げし、全作品の脚本・演出を手がける。2013年、『無差別』で第57回岸田國士戯曲賞候補。

  • 両国の演劇交流深化を②

    ソン・ジンチェク 1947年生まれ。韓国の伝統芸能の手法を現代劇創作に生かした演出家として国内外で知られる。84年『ソウル・マルトゥギ』で演出家デビュー。86年に劇団美醜を旗揚げ。ソウル・オリンピック文化芸術祝典「漢江祭」総監督、日韓共催ワールドカップ開幕式総合演出など国家的イベントも手がける。現在、財団法人国立劇団芸術監督。

 演劇の韓日交流が活発化している。韓国の著名な演出家で日本で鄭義信作『アジア温泉』の演出を行う孫ジンチェクさんと、日本の新鋭演出家で、韓国人気ミュージカルの日本版『チョンガンネ~おいしい人生お届けします』を演出する中屋敷法仁さんの2人に話を聞いた。

◆働くことの美しさ伝えたい 中屋敷 法仁(なかやしき・のりひと)さん(演出・脚本家・俳優)

 韓国の若き独身男たちが、独自の商売哲学とアイデアで八百屋チェーンの経営に成功。この実話を元にした青春サクセスストーリーが、韓国小劇場でミュージカル化され、ロングランヒットした。その人気作品の日本版『チョンガンネ~おいしい人生お届けします~』に挑む。

 「まず実話ということに驚きました。昨年、俳優やスタッフと共に韓国を訪ねて、創業者の一人に話を聞けたのですが、いまも情熱を持ち続けて仕事をしていることに感銘を受けました。韓国では八百屋という職業は差別されることが多かったのですが、そのイメージを変えることにも貢献したようです。話を聞いて自身の生き方を見つめ直す機会にもなりました」

 韓国版は比較的おしゃれな作品だが、日本版は必死に働く姿に焦点を当てたという。

 「汗水流して働くことの美しさを伝えたい。そのためエプロンも、韓国版は鮮やかな緑だが、日本版はワインレッドで汚れも出しました。キャラクターの魅力をより伝えるため、歌や踊り以上に演技を重視する演出としました。隣国にこんなにも熱い思いを持った人たちが存在することを知らせ、それを通して日本の若者に夢と希望を伝えたい。一人一人の観客が舞台を楽しんだ後、人生を振り返る契機になれば嬉しいです」

 大学在学中に劇団「柿喰う客」を旗揚げし、女性だけのシェークスピアシリーズ等を発表し、若者から熱い支持を得た。韓国との演劇交流事業にも熱心だ。

 「両国の若者は、相互の文化を当然のように楽しんできました。現在は少し停滞している感じがしますが、私たち20代が日韓交流を引っ張りたい。このチョンガンネも日本版をいつか韓国で上演したいと思っています」

 *東京・本多劇場で5月6日まで上演。大阪・森ノ宮ピロティホールは5月11~12日。http://www.dstage.jp/chonganne/


◆観客参加型の祝祭劇を 孫桭策(ソン・ジンチェク)さん(演出家、韓国国立劇団芸術監督)

 韓国を代表する演出家で、日本の新国立劇場が海外演劇人との交流を通して日本を見つめる企画「with―つながる演劇―」の第2弾として在日劇作家・鄭義信の新作『アジア温泉』を演出する。

 アジアのある島を舞台に、リゾート開発に巻き込まれる若者たちの姿を通して、生きることの意味、苦しみ、悲しみを問いかける。

 「東日本大震災を経験した日本が元気になってくれるよう、マダンノリという韓国伝統演劇の形式を生かした祝祭劇にしたい。マダンノリは日本ではなじみが無いと思うが、観客も共に参加する野外形式の演劇だ。また『クッ』という巫女が行う韓国の神事があるが、その形式も取り入れる。祝祭劇と群像劇をミックスさせた、新たな舞台空間を楽しんでほしい」

 「鄭義信さんは、生きることの誠意、真実を感じさせてくれる作品を常に発表している。鄭さんが在日という境界人として生きていることを、常に自問自答している中から、そういう作品が出てきたと思う。テクニックよりも心を重視する作家なので、一緒にやりたいと以前から考えていた」

 韓日共同作品だが、舞台は架空の、アジアのある島になっている。

 「世界のどこにでもある島で起きた、普遍的な『人間と社会の物語』と受け止めてほしい。韓国・日本・在日から俳優が参加しているが、韓日は似ている部分よりも、逆に似ていない部分が多いことを実感した。それらを融合させることで、より活気にあふれた舞台になると確信している」

 「将来は韓日中の演劇人が協力し、より幅広い文化交流ができるようにしたい。韓日中には歴史問題などがあるが、文化・芸術の交流を深めることで、アジアは一つという共同体意識が広がっていくことを期待したい」

 *5月10~26日、東京・新国立劇場。http://www.nntt.jac.go.jp/play/