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2016/08/19

<韓国文化>韓流シネマの散歩道 第24回 空想と幻想の世界へ                                     二松学舎大学 田村 紀之 客員教授

  • 韓流シネマの散歩道 第24回 空想と幻想の世界へ

    韓日合作インディーズ映画『ひと夏のファンタジア』

  • 二松学舎大学 田村 紀之 客員教授

    たむら・としゆき 1941年京都生まれ。一橋大学卒。東京都立大学経済学部教授、二松学舎大学教授などを経て、現在は同大学客員教授、都立大学名誉教授。

◆多様なファンタジー映画への目配り◆

 ファンタジアという言葉は、空想や幻想、さらには幽霊を指すとのことで、もともと相当に幅広いものらしい。これをそのまま映画のタイトルとして利用したのが、W・ディズニーの『ファンタジア』(1940年)。クラシック音楽とアニメーションを融合させたものとして名高い。しかし、甘美なロマンといった狭義のファンタジー概念とは程遠い。

 張建宰監督の『ひと夏のファンタジア』(2014年)は、この狭義のファンタジアに固執しつつ、甘酸っぱい恋物語を洪尚秀監督ばりの演出でさわやかに描く。

 物語は、二話構成となっている。第1話は、韓国人映画監督が日本語の堪能な女性(キム・セビョク)を伴って奈良県五條市を訪れ、ロケハンのために岩瀬亮の案内であちこち歩きまわる。

 ところが第2話では、女優のキム・セビョクがひとり五條市に現れ、駅前の観光案内所に勤める青年・岩瀬亮が生まれ育った篠原地区にまで足を延ばす。青年はこの女優にほのかな恋心を抱くようになるが、彼女にはすでに韓国に恋人がいた。

 この第2話にはシナリオがまったくなく、俳優と監督との話し合いで撮りすすめられた。この手法も洪尚秀の、その日の朝にならないと出演者にはストーリーが教えられないというやり方に似ている。また、そもそもなぜ五條市がロケ地に選定されたのか、などの余計な説明は一切省略されている。これも洪尚秀作品を連想させる理由のひとつといえよう。

 このほか、『人生の逆転』(2003年)というコミカルな映画がある。トンネル内で反対車線を運転するもうひとりの自分を発見して起こした事故を契機に、かつて神童と呼ばれた証券マンが人気ゴルファーとして復活する。

 つぎに、台湾映画『海角七号』(2008年)を紹介しよう。台湾最南端の町、恒春のリゾートホテルでの、日本人歌手を呼んでビーチ・コンサートを行うという計画に、町会議長が、「バンドは地元民で結成しろ」と横やり。郵便局員の阿嘉(範逸臣)とファッション・モデルで通訳の友子(田中千絵)がバンドの結成に奔走する。

 阿嘉は、植民地時代の旧住所のために宛先不明となった郵便物を開封してしまう。これは六十年前、日本人教師が教え子の台湾人女性にあてたラブレターの束であり、日本の敗戦により彼女を残して引き揚げてしまったことを詫びるものだった。

 コンサートは大成功を収め、手紙も無事に受取人のもとに届けられる。範逸臣による挿入歌「国境之南」とシューベルトの「野ばら」が美しい。この作品は台湾で記録的なヒットとなって、魏徳聖監督の次の作品、『セデック・バレ』を準備するものとなる。


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