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2016/04/22

<韓国文化>「発声」の限界に挑戦するパンソリ

  • 「発声」の限界に挑戦するパンソリ

    パンソリの世界を描いた映画『花、香る歌』
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 韓国伝統芸能の「パンソリ」初の女性歌手を描いた映画『花、香る歌』が、23日から全国公開される。パンソリの魅力とは何か、李喆雨(イ・チョルウ)・コリア音楽研究所所長に寄稿してもらった。

◆映画『花、香る歌』を観て 李 喆雨さん(コリア音楽研究所所長)◆

 1993年韓国で公開され空前の大ヒット作となり、パンソリブームを巻き起こした『風の丘を越えて―西便制(ソビョンジェ)』(林權澤/イム・グォンテク監督)以来、久々のパンソリ映画『花、香る歌』(李鍾泌/イ・ジョンピル監督)を観た。

 パンソリは、一人の唱者(ソリクン)が鼓手の伴奏に合わせ物語る伝統音楽である。朝鮮半島の全羅道を中心とした南道地方で発生し歌い継がれてきた庶民の口誦芸能で、パン(場)ソリ(音と声を含む)で表現するので、こう言われる。ユネスコの世界無形文化遺産に2001年「宗廟祭礼」に続き、2003年2番目にパンソリが登録されたほどである。

 人間が歌うあらゆる音楽の基礎は発声法であるが、パンソリの場合、いろいろな役を長時間(5時間から7時間)演じなければならないので、自身の声を超越し何時間唱ってもしわ涸れしない洞声(トンソン)を作るために修行する。そのためパンソリでは、口の中だけで響く声、ビブラート声、鼻にかかった声、焦点の定まらない声などを〝四忌〟といって嫌うのである。

 西洋音楽での専門家の音域は普通3オクターブ程度だが、パンソリの場合はその倍以上の音域が要求される。それ故パンソリの修行は発声の訓練に多くを費やしその限界に挑戦するといっても過言ではない。

 庶民の間でパンソリを修行し得音(マスター)するための言い伝えも多く、いわく「恨」を持たなければならない、糞水を飲まなければならない、喉から二升の血を吐かなければ一人前といえない、鳥の喉仏をざる一杯食べなければ大成しない、などなど様々な形で伝わっている。

 前置きが長くなったが、この映画で現在韓国のトップアイドル歌手として活躍しているグループMISSAの〝スジ〟さんが、どこまで現代の歌手としてパンソリにチャレンジできるのだろかと興味を持つ反面、無用の心配もした。

 下手をすると歌手の生命ともいえる声をだめにするかもしれないという危険性をはらんでいるわけで、そういう意味では現代っ子のスジさんが1年以上をかけてパンソリを特訓し、李朝末期に実在した女性パンソリ唱者の始祖といわれる陳彩仙(1847~1901年頃)の役をこなし、果敢にパンソリ発声に挑戦した勇気と大胆さに敬服した次第である。

 過去上映したパンソリ映画の『風の丘を越えて』をはじめ、日本では未公開の『千年鶴』(「風の丘を越えて」の続編)や『ヒモリ』(名唱成昌順の一代記)などの主人公は全てパンソリ唱者が演じている。

 『花、香る歌』の李監督はまだ30代と若い人だが、伝統芸能パンソリを現代的にどう捉えるかということもひとつの見所であるが、〝スジ〟さんをパンソリ唱者に起用するという発想はパンソリをどう継承発展させるかという意味でもひとつの方法として斬新さを感じさせた。


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