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2017/05/12

<韓国文化>韓流シネマの散歩道 第29回 裁判劇の面白さとは                                     二松学舎大学 田村 紀之 客員教授

  • 韓流シネマの散歩道 第29回 裁判劇の面白さとは

    人権派弁護士時代の盧武鉉元大統領をモデルにしたとされる映画『弁護人』

  • 二松学舎大学 田村 紀之 客員教授

    たむら・としゆき 1941年京都生まれ。一橋大学卒。東京都立大学経済学部教授、二松学舎大学教授などを経て、現在は同大学客員教授、都立大学名誉教授。

◆人権派弁護士の活躍を描く◆

 若き日の盧武鉉元大統領をモデルにしたとされる『弁護人』(2013年)が韓国で大ヒットし、日本でも好評を博した。

 監督のヤン・ウソクは、これが第1作。裁判劇はすでに各国で数多く製作されてきているだけに、この題材に取り組むには事件の選択やストーリーの展開などに相当の準備を強いられるだろうし、また、それなりの気構えが必要となるはずだ。

 この意味でも、69年生まれの若い監督の意欲と才能を讃えたい。盧武鉉政権の評価はともかくとして、有能な映画作家が続出する韓国にまた一人、注目すべき監督が登場した。

 80年代、全斗煥政権下で民主化運動が燃え盛っていたころ、主人公は苦学して資格を取った弁護士(宋康昊)だ。学歴もコネもない彼は、不動産登記など、いわば業界のスキマを狙って金を稼ぎ、弁護士仲間からはひんしゅくを買う存在だった。

 ところがある日、懇意にしていた小さな食堂の女将(金姈愛)から、大学生の息子(任時冠)の裁判について相談を持ち掛けられる。接見してみると、息子の身体は拷問のあとだらけ。これに衝撃をうけた主人公は、「人権派」へと転身してゆく。

 映画はその後の主人公の奔走ぶりを、正攻法で描いてゆく。宋康昊のいつもながらの熱演に加えて、脇役陣の手堅さも目立つ。ラスト近く、裁判で弁護団の名簿が読み上げられるとき、「イエー」という返事と「ネー」という答えが入り混じる。

 どちらもハイという意味だが、方言を混在させることによって、主人公を支持する輪が全国的な広がりをみせていることを暗示する。脚本の上手さが光るところである。

 もう一篇、『国選弁護人 ユン・ジンウォン』(13年)をあげておこう。原題は「少数意見」だが、邦題そのままに、金もうけにならない案件を担当するのが新米の弁護士(ユン・ゲサン)。事件は、再開発現場で発生した警察官と少年が死亡し、少年の父親が警官殺しの容疑で起訴されたというもの。被告側は正当防衛を主張し、逆に「100㌆の国家賠償」訴訟を起こす。この映画もまた、監督の金ソンジェの第1作というから恐れ入る。

 後者の『国選弁護人』はまた、韓国の陪審員制度(国民参与裁判)を知るうえでも興味深い。米国の制度では、陪審員は有罪か無罪かの評決のみを行うのに対し、日本の裁判人は量刑までも決めてしまう。

 一方、韓国の参与員の意見は、あくまでも参考意見として聴取されるだけであって、判決を拘束しない。映画は


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