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2021/09/17

<韓国文化>韓流シネマの散歩道 ハングル創生から死守へ   第62回                                     二松学舎大学 田村 紀之 客員教授

  • 民族固有の文字への思い

    民族固有の文字『訓民正音』を制定した国王・世宗を描いた『王の願いハングルの始まり』

 朝鮮王朝第4代国王・世宗は1397年生まれ。先王・太宗の譲位によって王位に就いたのは1418年、弱冠22歳のときだった。儒教(朱子学)を中央とした集権的な国家組織の骨格は、太宗の時代にほぼ出来上がっていた。

 1422年に父が死に、名実ともに権力を掌握した世宗は、日朝関係の修復に努めるとともに、国内的には、税制改革や貨幣鋳造のほか、集賢殿に人材を集め文化・科学の振興をはかるなど、先王が構築した国家の基盤をさらに強固なものにした。ただ仏教に関しては、妃(昭憲王后)の影響があったのか、崇儒一辺倒ではなく、儒仏双方に造詣が深かったといわれる。

 彼は民族固有の文字である「訓民正音」を43年に制定し、その解説本を46年に刊行した。この文字は、のちにハングル(偉大な文字)と称されるようになった。史書では通常、後者の46年を以ってハングル制定の年としている。

 映画『王の願い ハングルの始まり』(2019年)を紹介するには最低限、この程度の予備知識は必要だろう。監督のソ・チョルヒョンは製作者や脚本家、さらには出演者として映画に携わってきたが、監督としてはこれが第1作目。世宗を演じるのは宋康昊(ソン・ガンホ)であり、昭憲王后には全美善(チョン・ミソン)が起用されている。ここに諸外国語に堪能な海印寺の僧侶シンミ(朴海日=パク・ヘイルが好演)が加わり、新文字制定に反対する勢力との闘いに、ときには反発しあいながらも身分の差を超え信頼関係を深めてゆく。

 世宗は新文字の創設に熱中するあまり、政務は世子(後の文宗)に任せっきり。シンミが連れてきた小坊主ハクチョを実験台にして、朝鮮語の発音の仕組みを探り、それをいかに文字化するかという難題に四苦八苦する。このシーンでの宋康昊のユーモラスな表情と、凛とした姿勢を崩さない朴海日の対照が面白い。


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