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2007/10/20

<韓国経済>韓国進出日本企業インタビュー・競争から共創へ 第7回                                          ~韓国三菱商事 伊与部 恒雄氏~

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    いよべ つねお 1949年、東京生まれ。一橋大学経済学部卒。73年、三菱商事入社。カナダ三菱商事勤務、人事部長、執行役員、コーポレート担当役員などを経て2006年4月、韓国三菱商事社長に就任。ソウルジャパンクラブ理事長。

 ――韓国との取引の歴史を簡単に。

 1962年にソウルに駐在員を置いたのが韓国とのビジネスのはじまりだ。67年にソウル支店を開設し、浦項綜合製鉄(現・ポスコ)に鉄鋼プラントを供給する事業やソウルの地下鉄プロジェクトへの協力を行っていた。しかし、当時は日本商社への活動規制があって直接の売買はできなかったので、仲介ビジネスのみであった。規制緩和が進み、99年に現地法人「韓国三菱商事」を設立し、輸出、輸入、投資と文字通りなんでもできるようになった。

 私は14代目の社長(支店長)になるが、第3代支店長には、昨年亡くなったが三菱商事本社の社長、会長を務めた三村庸平氏などもおり、当社にとって韓国は、歴史的にも、市場としても、非常に重要な国・拠点と位置づけている。

 ――現在の事業は。

 三菱商事には、金属、機械、エネルギー、化学品、生活産業の5つの営業グループ(今年4月に発足した新グループを除く)があるが、韓国三菱も同じ組織体系になっており、年商は約5000億円。総合商社として、原油、LNG(液化天然ガス)、鉄鋼製品、非鉄金属、自動車部品、産業機械、石油化学品、合成樹脂、資材、繊維、食糧・食品等、ありとあらゆるものを扱っているが、現在、最も比重が大きいのは石油化学で、韓国の製品を中国や日本向けに売ったり、原料を韓国メーカーに納入する等、グローバルな取引をしている。最近では排出権取引など新規分野にも取り組んでいる。

 ――以前、韓国人をトップに起用したこともあり、現地化に非常に力を注いでいるようだが。

 韓国三菱のスタッフは約100人いるが、日本からの駐在員は20人で、残り80人は現地採用の韓国人だ。従ってビジネスは韓国人スタッフが中心になってやっている。ソウル支店時代の89年には在日韓国人の崔文浩氏を支店長に起用し、初の外国籍の取締役として話題になったことがある。

 韓国には優秀な人材が多い。就職難のせいか、募集すると若い人がたくさん集まり、日本語も中国語もでき、英語もうまい。やる気があり、向上心が強く、競争心が旺盛なところなどは、非常に戦力として頼もしい。

 ――韓国のビジネス環境は。

 昨年4月に韓国に赴任し、まず最初に感じたことは、日本・中国と非常にロケーションが近いということだ。日本と韓国は日帰りで往来でき、これは大きなメリットだと思う。ビジネスには、韓国三菱だけではできないようなこともあるが、距離的に近いために東京本社といっしょになってできる。また、ソウルから中国の大連、青島が1時間、北京、上海も2時間で行けてしまう立地の良さも大きな力になる。

 さらに、韓国と日本は基本的価値観を共有している。お互いに資本主義の国であり、法律の概念、市場原理など、ビジネスの面では非常に信頼でき、やりやすい。また、日本人の駐在員がたくさんいて、治安がよく、衛生面も問題ない。

 ――今後のビジネス展開について。

 韓国企業はいま、将来の成長戦略としてグローバル展開を図っている。みんなが海外に目を向け、アグレッシブに進出を図ろうとしている。この背景には少子高齢化で国内市場が伸びないという問題があるようだ。

 三菱商事の一番の強みは、グローバルネットワークにある。欧米から中国、インド、ベトナムなどの新興国まで、これまで築いてきたネットワークがあり、韓国企業が世界各地に出ていくときに、役に立てる局面がたくさんあると思う。

 さらに、企業が成長を続けるには変わらなければならない。同じ商売をしていてはだめだ。新しいビジネスモデルを構築し、新しい分野に出ていくダイナミックな活動が求められる。この点、三菱商事は総合商社で間口が広い。金融事業やイノベーション事業にも注力している。こういった分野でもわれわれが培ってきたノウハウを提供するなど、一緒に協力できるのではないかと思う。

 ――日韓はライバルとして時に敵対もするが、ともにパートナーとして発展していくためには。

 日本と韓国はライバル視されるが、ライバルとして競合することは悪いことではない。競合すれば互いに強くなる。現代自動車もトヨタと競合して力をつけてきた。

 日韓は競合する一方で、ポスコと新日鉄、サムスンとソニーのように、提携関係を築き、協調し合うパートナーとして、切っても切れない関係になりつつある。

 日韓FTA(自由貿易協定)交渉が頓挫して、なかなか前に進まないが、日韓の経済人たちは両方ともFTAを推進すべしと言っている。ビジネスの世界は、ネゴーシエーション(交渉)を重ねて接点を探り、妥協点を見い出していくやり方をとる。両国の政府関係者がテーブルについて、FTA交渉を再開することが大事だ。

 ビジネスは、人間と人間がやるもので、信頼関係が基本だ。韓国だから特別ということはない。韓国でも、他の国でも、顧客との信頼関係があればうまくいく。日韓でFTAが結ばれれば、中国のポテンシャルをもっと活用することもできる。日本と韓国が力を合わせて成長していくことが望ましい。