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2007/10/06

<韓国経済>韓国進出日本企業インタビュー・競争から共創へ 第5回                                           ~三井住友海上火災保険取締役専務執行役員 遠藤 勇 氏~

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    えんどう・いさむ 1948年、千葉県生まれ。慶応大学法学部卒。72年、大正海上火災保険(現・三井住友海上火災保険)入社。国際業務部長、常務執行役員、専務執行役員などを経て2007年6月、取締役専務執行役員に就任。

 ――日本の損保では唯一、韓国に支店を設立しているが、進出のいきさつは。

 韓国の保険会社との取引を開始してすでに30年以上になる。規制があって現地での営業ライセンスが取得できず、駐在員事務所を置き、業界2位の現代海上火災保険や4位のLIG損害保険と提携して主として韓国に進出している日本企業を対象にサービスの提供をやっていた。通貨危機のあと99年に保険市場が開放されたのを機に、02年に支店を開設した。

 以前の間接営業と違い、支店になってからは直接顧客の要望を聞いて対応できるなど、メリットが多い。韓国は隣の国でもあり、アジアの中で非常に重要なマーケットだ。営業の主体は日本企業だが、韓国の保険会社が受けた保険を再保険というかたちで引き受けることもやっている。営業5年目で、韓国での当社の元受け規模は24億円規模と順調に増加しているが、まだ小規模だ。

 ――韓国の保険市場をどうみるか。

 通貨危機のときは混乱が起きて、韓国は危ないという声があったが、保険は韓国の経済成長率とほぼ同じ年間5%くらいの成長が続いている。日本の伸び率は韓国の半分くらいで成熟しつくしており、日本と比べると韓国の潜在力は大きい。

 当社のアジアでの保険料は、元受けベースで1500億円くらいある。韓国市場の損害保険料規模は3兆円ほどだが、これからますます伸びるだろう。特に日韓の経済交流が進み、日本からの対韓直接投資が増え、現地での生産活動が活発になっている。これは、われわれにとっては大きなビジネスチャンスだ。

 ――現在、韓国で取り扱っている保険商品は。

 現在の営業は火災保険を中心とする企業物件が主体だ。歴史が浅いので韓国の顧客はまだ少ない。保険を引き受け、責任を持ってサービスを提供していくには、韓国各地への事業所の拡大や拠点づくりが必要で、これはまだまだ。今後の課題といえよう。自動車保険なども魅力だが、ファシリティー(営業拠点、対応能力)が充実していないとできない。事故はどこで起きるかわからず、すぐに対応できないと自動車保険のサポートは難しい。

 世界の国々をみると、経済の発展とともにモータリゼーションが起こり、自動車の保有台数が増えると自動車保険の需要が高まる。しかし、当社が自動車保険を扱っていない国もけっこう多い。これは、損害率が高く、採算が合わない国もあるためだ。

 韓国の損害保険料の半分は自動車保険が占めているが、いまは大変な時期で、保険会社は保険料を上げたくても上げられない状況にあるのが実情。事故の発生頻度と支払い率が高く、これをどうやって適正水準に落とすか、これが韓国の課題だ。事故が多いと、自動車保険から撤退する会社が増えてくる。韓国は、自動車保険の仕組みを早急に確立する必要があるだろう。

 その点、われわれは自動車保険についての歴史とノウハウをもっているので、韓国業界の役に立ちたいと思っている。事故が起こったときにどう対応するか、修理工場との関係をどうするかなど、韓国の損保業界に情報を提供したいと考えている。

 ――保険の営業で大事なことは。

 最も大事なことは、契約していただいたお客さまに事故が起きたとき、どういうサービスを提供できるかだ。2003年に大型台風「メミ(14号)」に見舞われ、韓国で大きな被害が出た。そのときに、当社を含め韓国の保険会社は大きな損害を被ったが、当社はいち早く保険金を支払い、顧客から大変感謝された。保険金を早く支払えば、企業はそれだけ早く事業の復旧ができる。

 われわれは、顧客に対し保険を売るだけでなく、損害防止、事故復旧のノウハウをアドバイスしたりもしている。こういうことも保険会社の大きな役割だ。

 韓国は日本と一緒で、地理的に自然災害が多い。また、急激な経済成長で工場が増えたが、一定期間を経ると老朽化し、災害が起こりやすくなる。このリスクマネジメントをどうしていくかが重要だ。

 ――今後の韓国における事業戦略は。

 企業の活動が世界に広がり、複雑になってきている。保険も、物損だけでなく、目に見えない間接損害、事故が起きたときの休業補償など、新しい保険商品を韓国に投入していくことが必要だ。そうして、韓国における売上を現在の20億規模から30億、40億にもっていき、韓国企業や個人の保険市場にも広げていきたいと考えている。

 また、韓国の業界大手2社や保険関係機関から研修生を受け入れたり、当社の秦喜秋会長が韓国企業を相手にCSR(企業の社会的責任)についてレクチャーしたり、セミナーを開き、韓国の保険業界の発展のお手伝いもさせていただいている。今後もこういう活動を強化していきたい。

 ――最後に韓日友好促進への提言を。

 韓国へ行くたびに思うことだが、若い人がはつらつとしていて元気がいい。グローバル化で若者たちは日本の文化も受け入れている。日韓の若い人たちの文化交流をもっともっと進め、良好な関係を深めていく。日韓関係をさらに良くしていくには経済交流に加えてこれが大事だと思う。