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2007/09/15

<韓国経済>韓国進出日本企業インタビュー・競争から共創へ 第2回                                          ~ 太平洋セメント社長 鮫島 章男 氏 ~

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    さめしま・ふみお 1938年、鹿児島県出身。慶応大学商学部卒。62年、小野田セメント入社。経理部長、秩父小野田取締役、同常務、太平洋セメント常務などを経て2002年4月、太平洋セメント社長に就任。

 ――韓国の双竜セメントに出資をしているが、そのいきさつは。

 ご承知のように、当社は小野田セメント、秩父セメント、日本セメントが合併して誕生した会社だ。韓国との関係は古く、1900年代前半に韓半島に5つのセメント工場をつくった。いまも稼働中で、三陟(江原道)の工場は現在、東洋セメントになっている。北朝鮮にある工場も稼働しているようだ。こういういきさつから、日本と韓半島のセメント事業は密接なかかわりがあった。

 97年の通貨危機で、韓国経済がIMF(国際通貨基金)の管理下に入ったとき、苦境に陥った双竜セメントから私どもに出資依頼が来た。それ以前から技術交流をしており、北東アジアに限らず環太平洋での様々な連携が考えられるパートナーと認識して出資をした。現在、トータルで出資額は700億円を超え、出資比率は3分の1弱になる。

 ――巨額の出資に反対はなかったのか。

 いろいろな議論はあった。当社は10カ国に投資をしているが、韓国は一番日本に近いマーケットであり、同じ北東アジア市場に位置する。そこの有力企業を放っておくことはできない。そう考えて支援に踏み切った。

 しかし、韓国の需要低迷の影響で2期赤字が続いており、経営は厳しい。銀行の管理から離れてまもなく2年になるが、今期あたりに黒字に転換することを期待している。

 ――韓国のセメント業界の現状は。

 韓国のセメント業界は多くの問題を抱えている。その一つが生コン業界の問題だ。韓国の生コン会社の一部は、セメントメーカーから商品を買うほかに、外国から普通セメントを輸入し、自国の鉄鋼メーカーや海外から高炉スラグを買って、それを生コンに使用している。この方法だと品質に問題が発生しかねない。これはセメント業界にとって非常に憂慮すべき問題だ。

 それから、日本や中国からの輸入も増加し、韓国市場の発展を阻害している。昨年の韓国の業界の決算をみると、赤字の会社が増えてきている。これを打開し、正常な経営状態にもっていくことが韓国の大きな課題だ。

 ――韓国の業界が苦境を脱するにはどうすればいいか。

 日本の場合、1990年の8600万㌧をピークに需要が毎年落ちて、私がセメント協会の会長になった2004年には5700万㌧まで低下した。このままいくと、日本ではセメント産業がいらなくなるのではないかと心配した。

 そこで、もっと社会的な存在にならないとだめだと思い、廃棄物処理を推進することに注力した。セメント業界は、事業の特性として大量の廃棄物を安全に処理できる。現在は、産業廃棄物4億㌧と一般廃棄物5000万㌧の7%弱、約3000万㌧を処理し、セメントの原料や燃料に活用している。

 韓国のセメント需要は4700万㌧もあり、国民一人当たり1㌧も使っている。日本は一人500㌔で、韓国は一人当たりの需要が日本の倍もある。しかし、不動産投資規制などでピーク時の5800万㌧から年々需要が落ちており、新事業に進出し多角化を図ることが必要だ。

 そこで、韓国も廃棄物の処理を更に増やしたらどうかと提案している。ところが、韓国の場合は、廃棄物の処理を増やしたくても、法的制約が種々あり、容易ではない。

 また、廃棄物処理業者の中には仕事を奪われるとして反発している業者もいる。日本でもそうだったが、廃棄物の種類などにより仕事の住み分けをすれば、問題は良い方向に向かうと考える。

 ――双竜セメントでも廃棄物処理を手がけているのか。

 現在、寧越工場(江原道)などで廃タイヤの処理などを行っている。ところが、寧越工場の周辺住民の方々が環境への影響を心配されたようだ。そこで、地域住民の方を30人ぐらいと行政関係者に、当社の津久見、熊谷、埼玉の各工場で廃棄物処理の状況を見学していただいた。日本のセメント業界はこういうこともしており、周辺にまったく影響なく、セメントの品質も変わらないということを知ってもらった。

 ――日韓関係をさらによくしていくための提言を。

 最近、一般の人々が両国を頻繁に行き来するようになった。やはり、まず互いの国がどんな国かを知ることが大事だ。いま、日韓経済協会が両国の高校生の交流キャンプを実施しているが、こういう交流を今後も続けていってほしいと思う。若いときに知り合った仲間が、いずれは国の中枢に立つ。

 将来を担う若者の交流が増えれば増えるほど、日韓関係はよくなるだろう。当社も若い社員を双竜セメントに送り込み、逆に双竜からも研修生を受け入れている。向こうに行ってきた社員は、韓国語を覚えて帰って来ており、こういう交流の積み重ねが日韓関係を変えていくと確信している。