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2007/09/08

<韓国経済> 韓国進出日本企業インタビュー・競争から共創へ 第1回                                          ~ アサヒビール会長 池田 弘一 氏 ~

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    いけだ・こういち 1940年福岡県生まれ。九州大学経済学部卒業。1963年アサヒビール入社。埼玉支社長、九州地区本部長、専務取締役酒類事業本部長などを経て、2002年社長兼COO、2006年会長兼CEO就任。

 ――アサヒビールと韓国との関わりについて。

 アサヒビールの子会社であるニッカウヰスキーが、1990年にウイスキーを韓国に輸出したのが始まりといえるだろう。焼酎メーカーの宝海社を通して輸出し、その縁で宝海社の焼酎をニッカが輸入販売していた。だから、当時はアサヒビール本体としては韓国との接点はまだなかった。

 その後、2000年に韓国ロッテグループの酒類販売会社を通してビールの輸出・販売を始めた。そうして韓国でのビジネスが深まる中で、同年、韓国の清涼飲料大手の「ヘテ飲料」に出資しないかとのお話しがあった。ヘテは97年末の通貨危機で経営破たんし、飲料部門がグループの外部へ事業売却されて経営再建を模索していた。ヘテ飲料は、韓国3位の規模をもつ清涼飲料メーカーで、事業自体の基盤はしっかりしていると判断し、当社は20%の株式を取得し、資本参加することになった。

 さらに、04年にはヘテ飲料の株を41%まで追加取得し、連結子会社化した。また同年、韓国ロッテグループの酒類販売会社に出資し、「ロッテアサヒ酒類」とし、韓国での酒類販売にいっそう力を入れ始めた。

 ――韓国進出に積極的な理由は。

 これまでは日本国内でのビール事業が中心だったが、日本国内市場の成熟化が進行することをふまえて、ビールなどの酒類を中心にしつつも、飲料や健康食品など「食と健康」の領域で、広くアジアで事業展開するグループを目指している。アジア市場での事業展開も重要と判断しており、その一環でヘテ飲料の子会社化やロッテとの酒類販売提携を行ってきた。
 
 私が初めて韓国に行ったのは20年ほど前だが、その頃はOBやクラウンビールが全盛だった。その頃はほとんど瓶ビールであり、缶ビールはあまり飲まれていなかったと思う。いまは生活スタイルが日本と同じようになり、缶ビールが普及している。スーパーやコンビニでも缶ビールが買える。そうした変化の中で、当社の「スーパードライ」をもっと飲んでいただけるチャンスが増えると期待している。

 韓国のビール市場の中で輸入ビールは2%前後のシェアとなっている。その輸入ビールの中で、アサヒは現在4番手だが、将来的には50万箱ぐらいまで販売を増やしていきたいと考えている。韓国でも外国ブランドビールの人気が高まってきたので、さらに需要が増えると見込んでいる。

 ――韓国との個人的なつながり、関心は。

 私は九州出身で、また、95年から3年間ほどアサヒビールの九州地区本部長を務めていた。九州はアジアとの貿易が盛んで、また観光客も多い。韓国への高速フェリーもあるし、別府温泉など観光地ではハングルの看板を積極的に出していた。アサヒビール九州地区本部の前に大型電機量販店があり、韓国の観光客やビジネスマンが大勢来られていたのを覚えている。九州の旅館や飲食店は、そうした韓国からの旅行者による売上も重きを占め、韓国に注目するようになった。

 また在日韓国人の方々が経営する焼肉店やバーなどに、アサヒビールを置いて頂きたいと営業に伺ったことも数多い。だから在日韓国人の方との付き合いも多いし、親しみを感じている。

 ――今後の事業展開は。

 韓国での酒類・飲料の売り上げを着実に伸ばしながら、ある程度の規模になったら将来的には現地生産もしたいと考えている。そのためにまずヘテ飲料の経営を立て直したい。ヘテ飲料はジュース類は強いがお茶や健康飲料が弱いので、そこに力を注ぎたい。商品開発、工場の効率的な運営、原材料の購入など、当社のノウハウを導入して、経営改善を進めたいと思っている。中国も含めた東アジア市場は、これから急成長する市場。将来を見越しながらやっていきたい。

 ――韓国進出を成功させてきた秘密は。

 成功といっても今はまだ認知度を高めている段階だが、現地で成功させるにはどういうパートナーシップを築くかが大切だ。ロッテやヘテとパートナーシップを組めたことが、ここまでやってこれた理由だと思う。

 一方、苦労する点は韓国の消費者に喜ばれる製品をどう作るかだろう。例えば樽生ビールを積極的に取り扱いたいとの声が韓国の飲食店からあるが、樽生ビールは鮮度が大切だし、注出器具のメンテナンスにも手間が多くかかる。そうした課題をいかに克服して、韓国の方に喜ばれる商品・サービスが展開できるかが課題だと思っている。

 ――韓日経済関係への提言を。

 経済交流を深めて、共存し競争する大人の関係をつくることが大切ではないか。それを進めるのは経済人の役割でもある。そして経済関係が広がれば、「歴史問題」が残る政治の関係にも好影響を与えるのではないかと思う。

 日韓両国は、少子高齢化が進み、二極化問題の顕在化、環境問題への対応など共通の問題を抱えている。これらに協力して対処していくためにも、両国間の経済交流をいっそう進め一日も早くFTAを締結してもらいたい。相互往来が進み、日本に来る韓国人が急増しているが、そうなればアサヒビールの愛飲家も増えるだろう(笑)。