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2011/09/23

<韓国経済>不均衡是正の韓日FTAを ~ 徐炯源・駐日韓国大使館経済公使に聞く

  • 徐炯源・駐日韓国大使館経済公使

    ソ・ヒョンウォン 1956年全羅南道順天生まれ。ソウル大学哲学科卒業。ソウル大学行政大学院修了。慶応大学研修。外務部(現外交通商部)入部後、東北アジア1課長、駐日韓国大使館政務参事官、G20首脳会議準備委員会行事企画局長などを経て2011年3月に駐日韓国大使館経済公使に赴任。

 韓日間の経済関係が年々拡大をみせている中、駐日韓国大使館に徐炯源経済公使が赴任して半年が経った。野田新政権への経済面の期待、両国間の最大懸案となっているFTA再開問題、景気下降の中で物価上昇が続く韓国経済の現状、韓日経済の今後の協力のあり方などを聞いた。(金時文)

 ――経済公使就任から半年。活動の力点は。

 東日本大震災の前日の3月10日に着任し、本来の経済業務はさておき、大震災対応に奔走した。在日韓国人社会における義援金募集やボランティア活動の支援、本国からの被災同胞らへのお見舞金支給、福島原発事故による韓国の専門家派遣などに忙殺された。7月以降、やっと本来の業務に戻り、韓日FTA(自由貿易協定)締結に向けた環境整備を念頭におき、韓国企業や商品の日本市場へのアクセス改善などに力を入れている。

 ――日本で民主党の野田新政権が登場した。経済面での期待は。

 日本が長期経済低迷から抜け出し、内需を土台に持続的な経済成長を実現することは、韓日経済関係の発展のためにも極めて重要なことだと考える。野田首相は財務相を経験、財政問題を放置すれば持続的成長も困難になる、という日本経済の緊急課題を十分認識している。均衡のとれた成長実現のため、強いリーダーシップを期待したい。
 
 また、経済の長期低迷に加え、3・11大震災や円高などで政界や経済界で産業空洞化を懸念し、一部で内向きで保護主義的な傾向がみられるが、もっとオープンな開放政策を打ち出し、日本経済の活気と成長を取り戻してほしい。

 ――東日本大震災後、日本企業の間で投資や合弁など韓国進出が活発化している。

 最近の動きは、基本的に大震災以前からのもので、韓国の投資環境の改善が背景にある。大震災後にこのような動きに加速がついたとみている。

 日本企業としては、サムスンなど韓国企業のグローバル化が進んでおり、提携のメリットが大きくなってきた。韓国は良質で相対的に安価な人的資源に加え、産業インフラが良く整備されており、EU(欧州連合)など巨大経済圏と結んでいるFTA(自由貿易協定)を活用できる。韓国に投資する効果が大きいので、現在の動きは一時的なものではなく持続すると予想される。

 一方の韓国企業にとっては、日本企業の部品・素材分野などの高い技術を学べる格好の機会だ。韓国で生産することで対日輸入代替効果が見込まれ、対日赤字是正にもつながる。韓日企業間の協力と投資が一層活発化することを期待したい。

 ――韓日FTA交渉再開の見通しは。

 韓日FTA締結交渉は03年に開始されたが、両国間の立場の差があまりにも大きく、04年に中断した。いまは交渉再開が大きな懸案だ。

 日本はまず再開して諸問題を議論しようという立場だ。だが、韓国はまた失敗すると韓日関係への影響が大きいので、大きな方向性を再開前に十分に協議し合おうと主張している。FTAの必要性については両国政府の認識は一致しているが、韓日間には対日赤字361億㌦(昨年)の利益の不均衡が存在している。FTA締結後、対日赤字が縮小していく展望なければ慎重にならざるを得ない。貿易を拡大しながら不均衡改善へ向けて協力していくことが当面の重要課題だと考える。

 ――再開の条件は。

 先ほども述べたように、韓日間には大きな不均衡があり、FTAを結んでこれをさらに拡大させては韓国で支持を得られない。利益の均衡のため、日本の政府と経済界が方向性をはっきり示すことが望まれる。例えば、輸入を数量規制している韓国産海苔を日本産と同じ扱いにするとか、韓国の建設企業の日本進出をオープンにするなど対日アクセスが改善されれば、FTAに対する期待も高まると思う。

 日本の関係省庁と関係団体の調整には時間がかかるかも知れないが、日本政府が指導力を発揮することを望みたい。基本的に楽観的な考えを持たないと何もできないので、新しい体制に期待してみたい。

 ――上半期の対日貿易赤字は152億㌦に達した。今後の見通しは。

 上半期には対日輸出が大幅に増加し、対日赤字が前年比16%縮小した。これは韓国商品の競争力向上という側面もあるが、3・11大震災による日本の一時的な輸入需要増大の影響が大きい。今後、対日赤字が持続的に改善されるかはもう少し見なければならない。

 対日赤字の主因は、完成品よりは部品・素材の輸入増大に起因しており、対日赤字の構造的な要因は今後も相当期間持続すると予想される。

 しかし、最近では日本の部品・素材企業の対韓進出が拡大し、高い技術をもった日本企業が韓国企業との協力を望むケースが増えている。また、昔は企業間取引が主だったが、いまは消費者に直接、携帯電話や液晶テレビ、農水産物を売る傾向が顕著になっている。このような流れが続けば、対日赤字が縮小に向かうと期待できる。

 ――韓国経済の現状をどうみるか。

 政府は、下半期に入り今年の成長率を5%から4・5%に下方修正した。韓国経済は輸出産業が牽引し、世界経済と連動しているため、欧米の財政危機をはじめとする対外リスクなどが景気の下方圧力として働いているが、韓国は財政が比較的健全なので、当面は世界経済の不安定な状況に積極的に対応する余地があるといえる。ただ、エネルギーと世界穀物価格の上昇で、物価の心配はある。また、所得格差や大企業と中小企業間の格差問題もあり、政府はいま、これに懸命に取り組んでいる。

 ――韓国の福祉のあり方について。

 欧米先進国の経済状態をみると、財政健全化が最大の当面課題だろう。これに照らしてみる時、福祉政策はいつも国家財政が担い得る能力を考慮しながら実施しなければならないと考える。ただし、韓国の福祉支出はまだ低い水準にある。ある学者の研究結果によると、OECD(経済協力開発機構)の中で韓国の福祉の総支出はGDP(国内総生産)比11・2%で、OECD平均21・8%の半分以下だった。福祉総支出の所得分布改善効果も、韓国は6%とOECD平均を下回っている。福祉支出の効率性を高めるためにも、もっと弱者に対する福祉に力を入れる必要がある。

 ――韓日経済協力の進め方は。

 両国の企業は、協力者でありながら競争者という二面性を持っている。世界市場でお互いが刺激し合い競争することで共に発展を促進する一方、新たな協力分野を発掘することで協力を強化していくのが望ましい。第三国で韓日が手を結んで共同進出することも好ましい協力のあり方だと考える。

 日本企業が韓国に進出して、韓国のモノづくりの水準を高めるのに協力すればWinWinになる。韓国の技術が高まれば、日本はもっと水準の高い研究開発に取り組める。お互いに刺激し協力するパターンが望ましい。協力パターンを制度化するため、FTAを真剣に取り組む必要がある。FTAという目標に向け様々な問題を解決する中で両国間の協力も深まると思う。
 
 また、少子高齢化など両国が共通して抱える問題に共同で対処し、協力の経験を蓄積することが大事だと考える。