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2000/08/18

<随筆>◇はだしのゲン◇

96年に初演、東京都優秀児童演劇賞も受賞したミュージカル「はだしのゲン」が、今年も全国上演されている▼原作は73年から「少年ジャンプ」で連載された中沢啓治さんの漫画。1945年8月、広島で原爆にあって家族をなくした主人公ゲンの青春を描いた作品だ。中沢さんの体験がもとになっており、原爆の悲惨さを伝えている▼その中で重要な登場人物となるのが、在日朝鮮人の朴さんである。強制連行で広島に連れてこられた朴さんは厳しい差別と過酷な迫害を受けた。当然、日本人を憎んでもおかしくない。だが、ゲンにやさしくする。ゲンの父が反戦主義者で、朝鮮人差別にも反対していたことへの恩返しである▼貧窮にあえぐゲンの家族に、自身も食べるものに事欠く中、なけなしのサツマイモを届けるなど、人間愛の大切さを身をもって伝える。初めてこの漫画を読んだとき、ゲンと朴さんの触れ合いに感動したのを覚えている▼ミュージカルでも、このサツマイモのシーンや、焦土の中で故郷・韓国を思う朴さんの姿が、とても印象深く描かれている。企画・製作の木山事務所では韓国公演を希望しており、「韓国人と日本人少年の心の交流、そして国境を超えた原爆の悲惨さを伝えたい」と話している▼朴さんに人生を教わり、原爆で両親を失ったゲンに、韓国の青少年がどう反応するか。韓国上演の実現を期待したい。(L)